漫画家の想いと情熱が守った明治建築の水色の洋館『旧尾崎テオドラ邸』お披露目会、開館までの軌跡。

 東京都世田谷区豪徳寺に現存する築135年の水色の洋館『旧尾崎テオドラ邸』。2024年3月1日に漫画を中心としたギャラリー・ショップ・喫茶室のオープンする。
 2024年2月8日(木)に、館内のお披露目と漫画家たちによる本プロジェクトのプレス向け発表会が行われた。
 ソクマガはその発表会に参加、館内の見学と発表会の取材にお邪魔いたしました。
 この漫画家たちによる世界初の新たな試みをみなさまにお届けいたします。 

旧尾崎テオドラ邸とは

 世田谷区豪徳寺に現存する築135年の歴史を持つ洋館。
 明治21年(1888年)、英国生まれの令嬢テオドラの為、日本人の父である男爵が建てたといわれている。
 当初は港区にあったが、譲り受けた英文学者が一度解体し、1933年(昭和8年)に現在の場所に移築したもの。
 尾崎違いの幸運な手紙の誤配から、生涯の伴侶である尾崎行雄と巡り合うテオドラ。
 日本の昔話を翻訳して海外に広めたテオドラ、そんな魅力的な彼女の軌跡を創造し、その生涯の断片に触れることができるのが『旧尾崎テオドラ邸』なのです。
  
 この歴史の長い洋館は、2019年に取り壊しの危機にありました。
 漫画家 山下和美を発起人に、「一般社団法人 旧尾崎保存プロジェクト」が立ち上がり、
 地域の方々や行政をも巻き込み、建物の保存を実現したのです。
 (山下和美のエッセイ漫画「世田谷イチ古い洋館の家主になる」にも実録している)
  
 そして、2024年3月 館内にギャラリー・ショップ・喫茶室をオープンすることを発表。
 さらに百年の命を与えたいという想いから、新たな100年に向けて再出発をはじめました。
  
 135年の歴史を持つ館の中は高さ約3.5メートルの開放的な空間が広がっており、
 歴史を感じる建築細部、その質感は本物の英国風洋館を感じられた。
 見学時には全ての家具は配置する前ではあるが、木洩れ日に揺れる古き良き日本の洋館を感じられた。

漫画家たちの想いがさらなる百年の命を吹き込む

写真は右から、福本伸行先生、新田たつお先生、笹生那実先生、山下和美先生、高橋留美子先生、高橋のぼる先生、三田紀房先生
 本プロジェクトの発表会では、発起人の山下和美先生をはじめ、笹生那実先生・新田たつお先生・
 三田紀房先生・高橋留美子先生・福本伸行先生・高橋のぼる先生ら7名の漫画家と、
 田野倉建築事務所の田野倉徹也 氏が登壇した。
  
 山下和美先生ははじめにこの『旧尾崎テオドラ邸』の歴史・購入に至るまでの経緯を語った。
  
 「散歩のたびに眺めていたこの館が2019年3月に解体される事を知り、いてもたってもいられず以前お世話になった田野倉徹也さんに相談し、なんとか残せないものかと共に動いてはみたのですが難航し、ネットで署名活動を行ったところ思わぬ反響を生み多くの署名が集まりました。」
 「大きな転機は、笹生那実・新田たつお夫妻の目にとまり活動に参加してくださってからでした。そしてなんとか購入までこぎつけたのです。」
 「その後、資金は底を尽きましたが、クラウドファンディングをはじめ多くの皆様に支援をいただきました。そして、計画を進めていくうちに漫画家で運営していくのがいいのではないかと、三田紀房先生が中心となって、多くの漫画家の先生にお声掛けいただきこの日にたどり着きました。」
 「漫画を中心としたギャラリーカフェとして旧尾崎テオドラ邸を再出発します。みなさまどうぞ宜しくお願い申し上げます。」
 と、このプロジェクトへかけた情熱と新たな100年の第一歩を宣言した。
  
 また、尾崎テオドラとゆかりのある国際NGO・AARジャパン難民を助ける会より、尾崎行雄ご一家の写真が贈呈され、実際に建物の修繕に関わった建築家からの説明が行われた。 

漫画家が繋いだ情熱

 この歴史ある洋館の保存に至るまで、様々なドラマと苦労があったプロジェクト。
 三田紀房先生はこの洋館を見た時、「このまま残して、綺麗に修復すれば何かができると思った」と思ったそうだ。
 しかし、修繕費用に関しては当時の見積もりで約1億。膨大な費用が必要となった。
 笹生那実先生は保存のためにクラウドファンディングを行って支援を募った。この支援を通じて「コミティアのクラウドファンディングのページを参考に一生懸命文章やグッズを考えた結果、なかなかの反響をいただきまして、当初想定していた1500万円を上回る支援をいただきました。それが何よりも心強い励みになりました」と語った。
 三田紀房先生は、莫大な額の資金調達において投資家などの支援も考えたが、「やっぱり、漫画家の力で、漫画のためにやらなければ意味がないと感じるようになった。最終的にこの7人で力を合わせてやったということに誇りを持っています。」と想いを語った。
  
 建材不足や物価高騰のあおりを受け、
 大変な状況でも山下和美先生の情熱からはじまった保存プロジェクトは、多くの支援者と漫画家の力でなんとか実現したのだ。

漫画界の大御所も応援に駆け付けた

写真は右から、ちばてつや先生・永井豪先生・秋本治先生・大和和紀先生
 発表会の最後には、三田紀房先生のゴルフ仲間でもある、ちばてつや先生・秋本治先生・永井豪先生のほか大和和紀先生も応援に駆け付けた。
  
 ちばてつや先生は「だいぶ前にこの素晴らしい洋館が取り壊されるという話を聞いたとき、これはちゃんと文化として残すべきだという話をして」と語った。
 つけくわえて「ただよく考えてみると、こういうことは国がやるべきことだなと思うんですよね」とコメント。先生のユーモアに会場では笑顔も見えた。
 永井豪先生も「これからますますマンガ文化が社会的にも素晴らしいものだというのをアピールする場になればと思っています」とコメントした。
 秋本治先生は「美術館的な要素もあるこの旧尾崎テオドラ邸が東京の名所となればいいですよね」と期待を寄せた。
  
 大和和紀先生は北海道にマンガミュージアムを設立する活動を行っている。
 同郷の漫画仲間でもある山下先生の活動に、「西洋館といえば、やっぱり少女マンガの世界ではありますし、私も明治時代の作品を描いておりますので、こうして復元された洋館を実際に見るとこんなにも天井が高いんだと改めて思います」と語り、
 ご自身でのマンガミュージアム設立の活動も交え「お役所とは畑違いな分野のこともありなかなかうまくいかないことも多いです。山下さんもこれを実現させるためにはお役所といろんな話をして、苦労して仕上げてきたんだと思うと、本当に頭が下がる思いです。素晴らしい行動力だと思っています」とお祝いを述べた。 

日本の漫画文化を世界に

 この『旧尾崎テオドラ邸』は、ギャラリー・ショップ・喫茶室として生まれ変わるのだが、館の一角では明治建築の世界を堪能していただくためにフォトスタジオも用意するそうだ。
 すなわち、洋館全体を使った『リアル』な事業。
 日本の漫画の強さと多様性などの魅力を世界に発信する全国有数の観光スポットへと成長させる夢を描いている。
  
 さらに、世界に日本の漫画文化を発信するため、越境ECサイトを用意している。
 日本の漫画家の1点物の原画をはじめ、複製原画などを販売する予定を発表した。
 こちらは世界に発信する『ネット』の事業。
  
 この『リアル』と『ネット』の2本を主軸とした展開で、多くの方に日本の漫画文化を伝えていく壮大な規模の事業、漫画家たちが自ら出資・経営する世界初の試みとなる。
  
 越境ECサイトは『旧尾崎テオドラ邸』のグランドオープンに合わせ、3月1日より稼働予定。大御所作家による描き下ろし原画も用意されていることが発表された。

『旧尾崎テオドラ邸』チャリティー作品展も予定

 2024年3月1日(金)~2024年3月12日(火)の期間で、『旧尾崎テオドラ邸』チャリティー作品展の開催も予定している。
 建築保存のプロジェクトにかかった膨大な費用を支えてきた漫画家たちへの返済と、今後の運営・保全費用のために、改めて多くの作家に呼びかけオークション作品の提供を募った。
 賛同した漫画家・イラストレーター・造形作家は38人。寄せられた描きおろし色紙、イラスト原画、立体作品は70点以上にも及び、これらの貴重な作品を『旧尾崎テオドラ邸』で展示する予定だ。
 さらにオークションを実施し、落札額の全額を『旧尾崎テオドラ邸』の補修・保全費用に充てる企画となっている。
  
 『旧尾崎テオドラ邸』2階のギャラリールームでは、貴重な作品がズラリと並び、美術的な館の雰囲気と相まって、より魅力的な作品として輝いていた。
 漫画文化の発信や保存の観点からも、漫画家による漫画のためのこの活動は、私達も共に考え体感し、見届けていきたいと思います。
  
 建物としても魅力に溢れた『旧尾崎テオドラ邸』。
 一度、訪れてみてはいかがだろうか。

 『旧尾崎テオドラ邸』公式ホームページ
 https://ozakitheodora.com/