愛が重いヘビー男子と、色恋に関心0のライト女子の化学反応から目が離せない『花野井くんと恋の病』

処方箋はなく、症状も人それぞれの病
 恋に恋したあのころ。
 この人と思う一人に、全てを捧げるような恋がしてみたい。とアクセルを踏む一方で、それによって自分が失われるのはコワイと、ブレーキを踏む気持ち。どちらも少しは抱いたことがあるという方、多いのではないでしょうか?
  
花野井くんの恋の病は重症!?
 2024年4月よりTBS系でのアニメ放送が決定しており、病みつき読者が続出中の『花野井くんと恋の病』。 
 同作で描かれる花野井くんはまさに、愛する人に全てを捧げてしまう、アクセルしかないタイプの愛がヘビーな男子です。ワオ!
 その猛攻たるや、一撃一撃の愛の打撃が――、重い。
 しかし、そんな猛攻に負けず一打を受け止める主人公の日生ひなせほたるちゃんは恋愛への興味が0!
  
 正反対な二人が合わさることでなんとも不思議な化学反応が起こり、読者を魅了してしまう……。そんな本作を少しだけ覗いてみましょう。 

愛がヘビーな男子の恋は大変

キタキタキタ、新しいタイプのヒーローが来たぞ!
 美形、アンニュイ、塩顔、クール、腹黒、肉食、草食、ロールキャベツ、キュート、アングラ、ダークと色々な個性あふれる少女漫画の“王子”に新たな風が吹いてきたね。
 頭良し顔良しで眉目秀麗な青年花野井くん、麗しいフェイスと好成績と高身長なナイスなスタイルで学校のモテを思うがままにする彼の欠点は、実は……愛が、とっても、とっても重いこと!
  
 想いを寄せた相手が、「真面目そうな人が好きそう」と思えば、すぐさま自分のお気に入りのピアスを外し、好みに合わせていくのは序の口。
 彼女からの「短い方が似合いそう」の一言で――、翌日には短く髪を切っちゃったり!
ショートも似合うよ!
 毎日の通学の待ち合わせは1時間以上前に寒空の下にステイ。心配になったら、もちろん着信は鬼。
 しかしこれらはチャンピオン花野井の左ジャブにすぎません。
 極めつけは……意中の彼女の大事な「小さなヘアピン」を見つけるために、雪の校庭に膝を付いて数時間探し続けるという右ストレート。
 尚、これはまだ、ストーリーの序盤である!
  
 ごめん、正直に言っていいですか? やり過ぎでは( ;ㅿ; )。
 そう、実はそんな感じで、花野井くんの重すぎる愛に付き合う女性はことごとく引いてしまい、「思っていたのと違う……」と――破局、いつも彼の恋は上手くいきません。 

恋愛に関心が0のライト女子

純真で、花よりも心は団子に夢中…
 しかし、そんな彼が出会ったのが、本作の主人公である日生(ひなせ)ほたるちゃん。
 友人に初カレができても、すぐ近くにモテ男子花野井くんがいても、目の前のグルメに夢中。恋愛への関心は0! 
 周りからも「恋はまだ早いかな」と言われるような素朴な女の子。美味しいものに目が無く、ちょっと幼く。そして純真です。
  
 そのため学校一モテ男子、花野井くんにも全く接点も興味も無かった。――のですが、友人と甘味をつついた帰り道。
 いつものように(いつものように!)恋人にフラれ、雪のベンチに佇む花野井くんがなんだか気になり、傘を差しだしたほたるちゃん。それがきっかけに! 
 「もしかして、きみは俺の運命の人?」と花野井くんの愛の重い、重い想いの猛攻を受けることになってしまうのであった!
  
引かぬ、怯えぬ、怖がらぬ!!
 しかし、そんな猛攻にひるむほたるちゃんではありません。
 「なんで、そこまで?」と、驚きつつ、引くことなく、どうしてそんなに?とむしろ興味を抱いていくのです。 

踏み出せない理由

変わってしまった友人 
 恋に恋するお年頃でありながら、ほたるちゃんが恋に踏み出せない理由は幼少期の思い出にありました。
 仲の良かったはずの友人が、好きな人をめぐり、ほたるちゃんに対して思わぬ行動を取ります……。
 そんな恋をして変わってしまった友人にショックを受けた事が引き金になり、ほたるちゃんは恋をすることがなんだか怖くなってしまっていたのです。
  
愛される理由
 だからこそ、恋に全霊を捧げる花野井くんの様子が不思議であり、興味津々。そしてそれは自分に引いてしまわないことが嬉しい花野井くんも同じです。
 少女漫画を楽しむとき、ヒロインだからという理由で愛されるストーリーも素敵ですが、もう一歩踏み込んで、ヒロインが愛される理由に納得を感じられると、さらに深い共感が芽生えます。
 そんな読者の気持ちに寄り添ってくれます。
  
愛に一途の猛攻も、全てが許される、このご尊顔 
 本作を手掛けるのは森野萌先生。
 儚げな輪郭、淡い綿菓子のような線描、古い映画の掠れたフィルムのようなやさしい風合いの絵がとても魅力的に感じます。とにかく、絵が麗しすぎる!
 墨色をベタっと塗らずに斜線を重ねて淡く処理する画面の印象はやさしく、浮遊感があり、なんだかずっと見つめていたい気持ちに。
 絵を見ているだけで可愛いやキレイ、楽しい、美しいと思わせてくれるのは少女漫画の醍醐味ですね。
 二人の関係が進展するにつれ、恋愛への関心が0だったはずのほたるちゃんの変化も素晴らしく、恋とは何かを知る内にその表情は魅力的に映ります。 
 恋する女の子はみんな可愛くてキレイ。が伝わってくる素晴らしい作画にも注目してみてください。

正反対な二人が互いの良さ知っていく

何事も普通が一番?
 出る杭は打たれるではありませんが、極端な個性はときにその人の短所としても受け取られてしまうことが世の中にはしばしばあります。
 恋愛に無関心でいるほたるちゃんも、愛にのめり込みすぎている花野井くんも、一般的な高校生の中では少し(少し?)浮いた存在です。
 でも、周りと違うことは決して悪いことではなく。特異な短所は見方を変えればそれはその人だけの素敵な魅力にもなります。
  
「――いつか私にも……恋はできるかな…?」
 と言うほたるちゃんの問い。
「ほたるちゃんにもいつか絶対、特別な誰かを好きだと思う日が来るよ」
 と花野井くんは答えます。 
 正反対な二人の彼女や彼の「らしさ」が際立ち、互いに惹かれる理由の説得が増していく。
 キャラクターの作り方と印象、一見違和感にすら見える個性的な欠点が強みやアイデンティティに変わっていく逆転がお見事です。
 化学反応を起こした二人がどんなふうにお互いを染めていくのか。その兆しを見届けたいと感じます。
  
 一見、短所や弱いところも。もしかしたらその人なりの輝きになる可能性を秘めていると期待させてくれるような作品です。 

▼ 作品情報 ▼

花野井くんと恋の病

著:森野萌


(C)森野萌/講談社