好きになった先輩の正体は男の“娘”?
天真爛漫で元気いっぱいの高校1年生、蒼井咲。
彼女が好きになったのはロングヘア―が似合う同性の素敵な花岡先輩……、けれど先輩の正体は可愛いものが大好きな「男の子」だったのです。
美少女と見まがう可愛らしい“女装男子”
『先輩はおとこのこ』は、見目麗しい女装男子である花岡まことを中心に、「好き」の気持ちが巡る青春ストーリーです。
しかし、本作の感想を綴る読者のレビューには以下のようなコメントが添えられていました。
「ほのぼの日常作品と油断せず、まずは2巻まで読んでください」
「普通」とは違うことへの葛藤を描きながら、筆致は軽やか。しかしほのぼの日常作品と思って読み進めていると――、ストーリーは段々と深みを増し、成長を遂げていきます。
AnimeJapan 2022が主催する「第5回アニメ化してほしいマンガランキング」にて1位に選ばれた本作が、ついに2024年7月4日よりフジテレビ“ノイタミナ“ほかにてテレビアニメ放送開始! 丁寧な質感の着彩で表現されるガラス玉のような瞳の生き生きとしたキャラクター達に惹かれて、どんなストーリーか気になっている方も多いのではないでしょうか?
かわいい。でもそれだけではない本作の深みに踏み入れていきましょう。
男の子なのに可愛いものが好き
「私の場合ほかの人よりヘンなのかも」
校内を歩くだけで周りの目を引く美人、高校2年生の花岡まこと。しかし、その正体は可愛いものが大好きで「女装して学園生活を送る」男の子でした。
まことは世間が男である自分に求める“普通”と“本当の自分”とのギャップに悩み、しかしその見目の良さから校内でも注目の的。
机に忍ばされていたラブレターにも、「自分の性別を勘違いした上での好意かな」と辟易した様子を隠せません。
(それにしても、ラブレターの文字が可愛らしいですね)。
けれど、送り主はボブカットが可愛い小動物みたいな女の子、蒼井咲でした。
「好きです!付き合ってください!」という咲の真っ直ぐな告白に慌ててしまい、誤解を解くために、女装を解き“男の自分”を見せるまこと。
しかし、その真実に引いてしまうどころか咲はーー、
「男の娘!最っっっ高じゃないですか!」
「むしろ男バージョンの先輩と、女バージョンの先輩を楽しめるってことじゃないですか!?」と鼻血を出しながら大興奮。改めて交際を申し込む勇猛っぷりを見せます。
けれども、青天の霹靂でもあるまことの返事は残念ながら「NO」。しかし、「私が先輩の初恋の人になってみせます」と、咲のまことへの猛アプローチが始まるのです。
深みを増していくストーリー
徐々に照らし出されていく内面
繊細なテーマでありながらもストーリーの冒頭にはどこかほのぼのとした空気が流れます。
しかし、話が進むに連れまこと、そして彼の周りの人物の心情が徐々に照らし出されていくことになるのです。
本作『先輩はおとこのこ』は2019年に、マンガ投稿サービス「LINEマンガ インディーズ」への投稿をきっかけに、「LINEマンガ」で期間限定の「トライアル連載」が始まり、その後圧倒的な支持により本連載がスタートとなりました。
投稿に寄せられる読者のリアルな声
カラー可、コマ割り自由。ページ制限もなし。自由度の高いwebtoonは次世代のマンガ媒体として注目が集まっており、日々新しい才能が育っていくのを目の当たりにします。
各サイトを閲覧すると、連載作品の各話に向け匿名でのコメント投稿ができる場合が多く、読者同士のコミュニティの場としても賑わいを見せます。
「LINEマンガ」に掲載されている本作の第1話にはなんと2,000以上ものコメントが寄せられており、中には匿名だからこそ自分の性に対する悩みや本音を語る投稿も少なくはありません。
読者の存在がより近いwebtoonだからこそ、リアルな声が伝わる。『先輩はおとこのこ』を読み進めると、そんな個人の葛藤や行き場を無くしてこぼれたメッセージに真摯に寄り添うように、キャラクター達は成長を遂げていくのです。
悩み、葛藤し、成長していく
「バカみたいだな男のくせに」
母親がまことに求めるのは「男らしさ」。男らしく振る舞えば、受け入れられる現実に、自分の“好き”と母が、世間が望む“普通”の狭間にまことの心は揺れ動きます。
そして、彼の周りの人物も様々な葛藤を抱え、思い悩んでいくのです。
「俺は、普通でいたい」
まことの幼馴染である大我竜二は、親友であり、気心の知れたまことの女装姿にいつしか好意を抱いている自分に愕然とします。
もちろん、それはマイノリティーの思考であることはわかっていて、けれど想いはやがて抱えられないほど大きくなっていってしまうのです。
「特別って何?」
冒頭でまことに好意を示していた咲も、竜二のまことへの真剣な想いを目の当たりにする内に自分が抱く感情に「特別」を見いだせなくなっていきます。
男女問わず人気者で、明るく、周りの皆に対して平等に好意を持つ咲だからこそ「特別」がどんなことであるかを悩み、葛藤するのです。
ストーリーに登場する3人が抱える悩みや葛藤。けれどそれでも一歩を踏み出していく彼らの様子は、ケースは重ならなくとも多くの読者にとって励ましとなったのではないでしょうか。
どっちかを選ぶ必要はない
可愛いものは好きだけど、「僕は女の子になりたいのかな?」と、ふとまことは自分に問いかけます。でも、答えは出ません。
母が望む男らしい自分か、女装する自分か選ばなくてはいけないかと悩むまことに、作中で咲が問いかける、
「どっちかじゃないとダメなんですか?」
という台詞が印象的でした。
女装が好きだけど、女の子になりたいのかはわからない。
男の幼馴染のことが気になっていても、同性が好きなわけじゃない。
一般的な想像や理解と、個人の抱える悩みが乖離するように、何かのカテゴリの一つが当てはまるからといって、方程式のように全てが決まっていくほど私たちの心は単純ではありません。
だからこそ、何かを決してしまうわけではない本作のストーリーの揺らぎは、読者の心に手を添えてくれるような印象を覚えます。
今の時代の中で、自分の心のままに揺れ動くナイーブな10代の「らしさ」に。読む人は心を重ねたり、かつてを思い出したりするのかもしれません。