『映像研には手を出すな!』は今だからこそ手をだすべき!原作ならではの魅力と楽しむポイントを解説!

その繊細で丁寧なこだわりと映像化はよほどの難易度だ…と思われていた『映像研には手を出すな!』。
アニメ・ドラマ化を経て、実写映画化まで…
いずれも濃厚な作品となっていますが、いまだからこそ原作を読んでほしい!

もちろんまだ作品に触れていない方にも向けて、「どんな作品か」「ここがイイ」といったところに焦点をあてて、原作のこだわりと楽しむポイントを解説します。
読めば読むほどその緻密で新しい漫画の形を体験してください。
原作からその他メディア作品に触れることで新しい発見や楽しみ方もあるかも!
コンパクトに解説される世界観
一巻をめくると、早速ダンジョンのような街並みと複雑な構造の学園が紹介されます。
主人公のひとり、浅草氏のセリフ通りです。
浅草氏の主観も入っているであろうが、まさに子供の時に見た巨大な建造物にたいするワクワク感に近いものを感じます。
あえてセリフで言わせることで、この子はすごく構造的なものに興味があるんだとわかりますね。
さらに、的確に見た通り説明することで奥行のある世界観を演出しています。
随所にみられる浪漫な設定がチラホラ
その後も続々と主役たちが登場します。
セリフのすべてが我々の等身大であり、登場する道具なども現代の物のまま。
なので読んでいくと現代劇だと思いがちですが、実はとてもSF的な世界観なんですね。
上のコマもネタ探しに散策をするシーンですが、少しポストアポカリプス的、水没した人工物 が登場します。
いり組んだ地形設定ならではのもので、これだけでもこの世界の考察要素のひとつになります。

これに気が付いた時、ビビッときますね。細かすぎる映画や漫画のパロディも必見。
例えばこの場面は映像のイメージを話し合っているんですね
妄想の世界が入り混じると言いましたが、実際には映像制作のための設定を解説しているんですね。
本作では後述しますが”映像”的効果をバンバン使用しており、
映像制作としての説得力とイメージをもたせるためシームレスに既存のコマに対して、浅草氏の妄想した映像イメージを”投影”しているんです。
その妄想の世界の広がりは無限大、クリエイティブなこの世界を堪能しましょう。

✔まさに映像のような画面構成

奥行きがあって、すごくアニメ的な構成
本作で特徴的といえば、まず目に飛び込むアクロバティックな画面構成です。
俯瞰やあおりの構図や人物の演技に合わせ、吹き出しにさえもパースがかかっておりまるで映像を見ているかのような作風となっております。
「映像研」をテーマとしたこの日常劇は、まさに映像のような画面構成を丁寧に描いております。
手前と奥、ピントをうまく使った演出は珍しいですね
面白いと思ったのが上のコマ。
フリーハンドで躍動感のある作画ですが手前のモノはあえてぼかしていて、しかも吹き出しまでぼかしてる!!
アニメや一枚絵などではこのようなぼかしなどの表現は奥行を与えるものですが、
漫画での一コマで、吹き出しのセリフまでぼかす事で主要人物たちとはちょっと離れた空間でしゃべっているという演出をしています。
このような映像的表現が随所に散りばめられています。
最初はそのアクロバティックな演出にとまどう事があるかもしれませんが、
読み進めていくうちに不思議とコマの中で動きだすんですね。

✔止まらない情熱の塊・浅草

熱意はだれよりもある浅草氏
映像研といえばやはり主人公の三人娘たち。
まずは、映像研の中でも語りつくせないほどの情熱を持つ浅草氏。
小柄でまるっこいフォルムの浅草氏は独特なしゃべり方だが人見知りでたまに上着をかぶって外界をガードしています。
日常ではおちゃめなイメージもあってマスコット的なかわいさのある浅草氏ですが、
好きなものにかける情熱は誰よりも強く、熱血な一面もあります。
止まらない好奇心と語り切れない情熱!
最強の世界を描きたいと願う彼女はとにかく妥協をしたくない。
締切に間に合いそうになくてもその情熱はとめられないほど。
まさに制作陣の”監督”なんですね。
どんなに厳しい予算とスケジュールで、みなを感動させる作品を仕上げる浅草氏だが、
出来上がった物を見ると、まだ改善の余地はある…とクリエイター魂を燃やし続けます。
そんな頼りがいのある、真面目な浅草氏ですがおちゃめな一面もあり、
日常でみせるなにげないかわいさを特に描いたキャラクターですね。

✔胸に刺さる言葉・金森

自分たちに利益があればどこまででも突き詰める金森氏
映像を作るにあたって、制作スケジューリング、予算を含む金勘定、広報というのはとても大事でそのすべての管理を行っているのが金森氏である。
視点としては”経営”や”営業”に近い視点だと思います。
しかしアニメの知識なども興味もそこまでなく、読者にも近いような人物でもあります。
歯に衣着せぬ物言いだが、セリフが心にグッときますよね
特に読んでいて胸を打つのはそのセリフ。
潔く、わかりやすく、筋の通った振る舞いは制作陣に勇気を与えてくれます。
なにかあっても叱ってくれる、帳尻を合わせてくれるからこそ、制作に集中できるんですね。
時に男前で、不器用な優しさをみせる彼女の姿はいつでもホッとするしたのもしく感じます。
学生時代、クリエイティブな趣味があった人は絶対グッとくるキャラです。
しかも一人だけアニメに詳しくない、興味がないからこそ多くの人に寄り添えるからこそ
読んでるうちに金森氏が一番主役なんじゃない?とさえ思うほど魅力的なんですよね。

✔才能と観察眼・水崎

まさにお姫様的に登場した水崎氏。実はかなりマニアック
俳優の両親を持つ、現役モデルのJKという3人の中でも極めてキャッチ―な属性の水崎氏。
オタクに無縁そうなステータスの彼女は、やはり一番女の子として描かれていますね。
しかし、彼女の一番は「演技を描く事」。つまり映像制作における”動画”視点なんですね。
英才教育のたまものか、水崎氏の観察眼は”本物”
ひとつの仕草を魅力的にとらえる観察眼をもつ彼女はまぎれもなく俳優の子供。
演技にたいする熱量は浅草氏を凌駕するほど。
面白いと思った動きを何度もやってもらったり、それと同じ動きをしてみたり…

3人の中にアイドル的人物、つまりは表立つ人がいていいのだろうかと思うところですが、
非常に良いバランスで構成されており、それぞれのキャラがお互いを引き立たせているのもこの作品の魅力です。

✔好奇心と情熱の世界

楽しむポイントの総括として、この漫画のジャンルは映画論でもなく、日常でもなく、リアルでもない。
業界でもなく、「オタク」ではないかと思います。好きなものを突き詰めていく青春劇・好奇心と情熱の世界。
だからこそストレスフリーで楽しんで読むことができるんですね。
少しでもアニメを作る上での闇とか裏事情的な要素などネガティブな印象もあるので、あくまでフィクションとしながらも、読み手に共感できるような題材になっていると思いました。

そしてなにより随所に大童澄瞳先生の”好き”や”こだわり”が伝わってきます。
それは内容とあいまって「これは面白くなりそうだ」と思わせてくれるんですね。わくわく体験。
さて、原作を読んだら次はアニメ、映画…と先生のこだわりとこの『映像研』という作品の楽しみは尽きません。
次はどんな世界を見せてくれるんでしょうか。
これからの連載も目が離せない作品です。