【感想】書店員の読書感想メモ。『きみが死ぬまで恋をしたい(著:あおのなち)』「戦争×学園×百合」理不尽でハードな世界観で、儚げで美しい百合。

※当コラムはあくまで執筆者の私見と個人的な感想です。

 戦争兵器として魔法を教え、育て、戦場へ送り出す"学校"を舞台にした、戦争×学園×百合作品。
 綺麗な魔法や希望に満ちた未来といったファンタジー作品ではなく、大きく分けるならダークファンタジー作品となる。
 シビアな世界観と、戦争の不条理などを描きながら、登場人物たちの心情や成長に胸を打たれる漫画だ。

 魔法も成績もごく平凡な少女「トツキ・シーナ」が、ワケありで謎多き少女「カガリ・ミミ」と出会い、寮のルームメイトとして一緒に暮らすことになる。
 戦争の最中、生徒の中から実戦できる者は招集がかかり、戦地へ送りだされる世界。
 帰ってくる保障もない理不尽な世界で、生徒たちは学園生活を送っている。

 ミミは学校の秘密兵器と噂されており、見た目の幼さや言動の無邪気さからは想像できないほどの魔力を持っており、敵を殺すことにためらいがない。
 決して死なないとも言われ、人としての原形をとどめないほど傷ついて帰ってくることも。
 戦争や誰かが傷つくのが嫌いで、自らの境遇を受け止めきれないシーナは、そんなミミと出会うことで少しずつ心に変化を及ぼしていく。
 また、人と関わることがほぼなかったミミも、心優しいシーナと交流することで、自我が成長していく。
 二人のペアとしての成長と、それを取り巻く周りの生徒たちの人間ドラマが本作の見どころだ。

 絵としても非常に繊細で美しいタッチで描かれており、少女漫画的でキラキラとした少女たちは極めて美しく見えるものだ。
 しかし、学園生活の隣合わせで存在する戦争ということで、日常風景の描写などもどこか退廃的に描かれており、
 ハードでシビアな展開に入ると、そのギャップにグっと胸がつかまれる気持ちになるだろう。
 ハラハラとドキドキが襲ってくる中、少しずつ成長を見せる少女たちの逞しさ、百合としてのロマンスが一層感動を誘う構成になっている。
 戦争ものはちょっと…という人は安心してほしい。
 特に政治的なものや死体などの泥臭い演出は極力回避されており、儚いながらも美しく描こうという拘りがあるようだ。
 その点については、戦争描写を少なくすることで、戦地がどうなっているかいまいちわかっていない生徒たちの目線に合うようになっている。
 大人たちも存在しているが、詳しくは明かしてくれないものだ。

 百合漫画としての側面においても、友情から愛情まで、非常に丁寧にステップを踏んでおり、急な抱き合わせなどないようになっている。
 細かく設定された背景を、少しずつストーリーに絡めることで、理解度が上がり感情移入必至。
 字面だけで紹介されると重いように感じるかもしれないが、どちらかというと「感情クソデカ百合」といってもいいだろう。

 非常に長く続く作品ながら、毎巻しっかりとテーマ性がありまったく飽きないだろう。
 ちゃんと次回は無事なのか、どんな展開が待っているのか…ハラハラとしながら単行本の発売を待ちわびている。
 兵器として育てられる少女たちは、今後どうなっていくのか、目が離せない作品だ。

きみが死ぬまで恋をしたい
著:あおのなち
(C)あおのなち/一迅社