付き合ってないのに、彼氏じゃないのに、片思いなのに…!『なのに、千輝くんが甘すぎる』!

美味しいクッキーの材料に欠かせないのは「塩」!

 お月様のようなきつね色で、さっくりとした歯ごたえ。指先にも残るたっぷりのバターの香り。側面にたっぷりとまぶされたグラニュー糖……。
 甘いクッキーは美味しい!
 けれど、甘い一辺倒だとすぐに、飽きがきてしまうものです。
 だから、美味しいクッキーには実は塩が欠かせません。ほんのひとつまみの辛めのパンチが、その後の甘みの余韻を一層引き立たせてくれる。
 もしかして恋愛もそうなのでしょうか?

彼氏じゃないのに、甘ぁーい! 塩対応の朴直男子から目が離せない!

 2023年に映画作品として公開が決定した話題作『なのに、千輝くんが甘すぎる』! その見所はタイトルの通りの、甘い、甘いっ彼の態度!
なんということでしょう。これは壁ドンの進化形、カーテン二人羽織……!?
 ……なのですが、なんとこの二人、付き合っていない!のです。

 それどころか、この千輝くんは学校でも有名なモテ男子。でも、そんなモテに対する対応は塩な塩対応男子で有名。
けれど、そんな彼が見せる甘いギャップに主人公:真綾も読者もクラクラに……!
 天然なの? それか、もしかしてとんでもなく悪い男なんじゃないの? と、真意が気になりつい前のめりになってしまうっ! 甘味なラブストーリーが始まります!

 16歳の如月真綾きさらぎ まあやは恋に恋する16歳。
 半年前に塾で出合った眼鏡男子の山田くんに片想いを続ける楽しい日々を送っています。
 好きな人ってすごい。毎日の通学路や、学校を特別なものに変える。姿が見えるだけで嬉しくて、相手のことをもっと知りたいと思う。それで気持ちを告げて、互いに想い合えたら幸せだよね。
 ところがどっこい現実はそーもいきません!
 ある日真綾は思い切って山田くんに告白するも――、結果は撃沈。挙げ句の果てに、失敗した告白は山田くんのSNS(フォロワー900人弱!)にて投稿されてしまう始末。その内容も「ストーカーのブスに告られたwww」と辛辣なものでした……。
 もはや恋のきらめきはトラウマ寸前となり、翌日、図書室で嘆いてしまう真綾。
 そんな彼女の独り言を聞いていたのは真綾と同じ図書当番の千輝 彗ちぎら すいくんだったのです!

✔千輝彗くんは学校一のモテ男子で…塩!

恋が終わったら、“ごっこ”の始まり?
 千輝彗くんは陸上部のエースランナーであり、真綾と同じ図書当番。
 なんと彼が当番の日は図書室が女子で埋まってしまうモテ男子! で在る一方、無口な塩対応男子としても有名人です。

 真野の大失恋に対して「話したらすっきりするんじゃない?」と促しながら、興味なさげに聞く彼。
 真綾が辛かったのは、あんなに好きだった山田(好意を寄せてくれた乙女をブス呼ばわりするような男子には敬称は省略です!)のことが、もう好きではなくなってしまったこと。
 こんなのつらすぎる、好きな人を好きでいられなくなるくらいなら、もう永遠に片想い止まりでいいかなと漏らす真綾。
 でも、事情を話しどこかすっきりした真綾にとんでもない提案が飛んできます。

✔俺に“片想いごっこ”すれば?

“片想いごっこ”ってなに?
 なんと千輝くんは通学時、山田に片想い中の真綾の様子をよく見ていたと言うのです、わぁ恥ずかしい! でも、それが楽しそうで微笑ましかったとのこと。確かに、恋する乙女は輝いているよね。
 そして、失恋が辛くて新しい相手を無理して探すくらいなら俺に片想いすれば? と、とんでもない提案をするのです。
え? そ、それは告白ですか??
 学校一のモテ男子からのアプローチにたじろぐ真綾。……ですが、千輝くんにとっては11歳下の妹によく付き合わされた「ごっこ遊び」の要領で俺に片想いしなよという程度の温度……。うーんこの男子! 気持ちが読めない!
 それでも、大失恋から立ち直りたい真綾は千輝くんの申し出に乗り、片想いごっこが始まってしまうのです。

✔ところで“片想いごっこ”って何するの?

片想いミッションをクリアせよ!
 満を持して開幕した“片想いごっこ”。手始めに、何をするの?ということで脅威のできるタスク力でリストアップしてくれる真綾(できる子!)
 その内容は、えー……、
 見かけた回数、目のあった回数のチェックから、下駄箱、登校時間、校友、家族関係のチェックまで……、探偵なの?  「ストーカーかなにかかな?」と塩反応な千輝くんの突っ込みも何のその。恋をするとみんな常識的なストーカーになっちゃうんですと笑顔の真綾。
 初めは片想い経験が無いという千輝くんに「片想い」の良さをレクチャーしたいと意気込んでいた真綾ですが、段々その熱以外のものが入っていくことに!

✔だって、この塩対応男子、甘すぎる!

付き合ってないのに!
 それもそのはず、この“片想いごっこ”のはずの千輝くんが、どーにもこーにも甘いのです!
 隙ありといわんばかりに、彼女が持っていた飲み物をシェアすることに始まり!
飲み物のシェアは本人の了承を得て、用法用量を守り、かつイケメンにしか許されない!
 真綾がたまたま乗った電車に、黒歴史の告白相手の山田がいた際は、「好きな男、あいつじゃなくて俺だろ?」と、よそ見禁止のお達し!
 さらには妹の髪を結い上げる要領で髪をアップにしてくれたり……
 それがまた上手い!そしてすかさず褒める!

 図書当番中、真綾の下着のホックが外れてしまうというハプニングに対しては、彼ジャケット!
この何気なく描かれる背中が格好良い、私の一押し場面です。
 え、これで、この二人付き合ってないんですか……?
雲の上の千輝くん
 甘すぎる塩対応男子の塩・朴訥・甘い!その波状攻撃に早くも瀕死の真綾。読者の私も息切れです。でも、これはあくまで! “片想いごっこ”。
 彼の気持ちをどう受け取っていいか更に混乱してしまいます。というのも千輝くんは本当にモテるのです。
 部活中の彼の勇姿を見るために人垣ができたりと、もはやアイドルの彼。黄色い声援を一身に受け、超美人で有名なA組の花咲さんに猛アプローチされたりと、こんなの気が気じゃありません。
片想いだって永遠じゃない
 片想いだからこそいつ終わっちゃうかわからない。それなら本当に好きになるのはつらい……。
 心ではそう思っていても、優しくて甘い彼に、真綾は、いつしか千輝くんを好きになってしまいます。
だよね! ごめん、真綾こうなるって知ってたよ――。
 恋する気持ちは無理矢理止められるわけがない、どこまでも好きでいたい
 ずっとずっと片想いでいい。そう決意する真綾に、千輝くんはまさか、まさかの提案をします。
「“両思いごっこ”してみる?」
え、これはもう告白では?
 もう、このつかみ所のない塩対応男子に翻弄されっぱなし!
 付き合ってないのに、彼氏じゃないのに、なんでこんなに甘いのでしょう!?
 これって天然? それとも計算? つかみどころのない朴訥・剛毅クール男子が何を思っているのか、いよいよ頭は混乱、でも目が離せません……!

 そしてそんな千輝くんの気持ちも段々紐解かれていく描写にもキュンとなること間違いなしなのです!
実は真綾の知らないところで千輝くんとボーイミーツガールしていた?
 これはもう、真綾と一緒に、塩系甘味男子に振り回されちゃいましょう!

▼ 作品情報 ▼

なのに、千輝くんが甘すぎる。

著:亜南くじら


(C)亜南くじら/講談社