【感想】書店員の読書感想メモ。『ねずみの初恋(著:大瀬戸陸)』絶対に交わる事のない ピュアな男の子×裏社会しか知らない女の子 恋と戦いの物語

※当コラムはあくまで執筆者の私見と個人的な感想です。

 殺し屋の女の子が初めて知った世界はあまりにも甘酸っぱくて眩しくて優しい世界。
 幼い頃から殺し屋として育てられた女の子"ねずみ"。
 裏の世界しか知らなかったねずみだが、ある仕事の日に現場で出会ったのは純粋で優しい男の子"碧"だった。
 まっすぐに好意をさらけ出す碧にこれまでに抱いた事のない感情を覚えるねずみは、少しずつ人間らしい恋を体験していく。
 しかし、裏の世界はそんな温かく優しい世界の味を許すハズがなく…。


 ハードな世界観と展開に胸が苦しく、さらに碧との初々しい恋模様の対比がすさまじく、
 WEB広告でも話題となり人気作として注目される『ねずみの初恋』。
 絶対に交わる事のない、ピュアな男の子×裏社会しか知らない女の子の恋の物語であり、戦いの物語でもある。
 もうやめてくれといわんばかりの展開に、苦しくても続きが気になって仕方なくなってしまう構成は見事。
 無表情に仕事をこなす、ねずみはクールな印象を受けるが、次々と訪れる人間らしい表の世界の影響を受けて素直に感情を出す様子を見ると胸が高鳴るのだ。


 「もし、ねずみちゃんが普通の女の子なら…」とか「出会い方が違っていれば…」なんて考えてしまうくらい、ねずみと碧の恋は初心で甘美で眩しいものだ。
 だからこそ、どこまでも追いかけてくる裏社会の影が重くのしかかってくる。
 ねずみの葛藤と、碧の強さに胸を打たれるもハラハラが止まらない。
 1巻を読み終えたあたりで、どうしても続きを読みたくて仕方がなくなっているだろう。


 どうか幸せになってくれと思う反面、その苦境をどう乗り越えるのか…
 苦しくても読んでしまう、その矛盾を抱いたまま、私たち読者は『ねずみの初恋』を見届ける事になるのだろう。
ねずみの初恋
大瀬戸陸

(C)大瀬戸陸/講談社
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ヤクザに殺し屋として育てられ、人の愛を知らずに育った少女、ねずみ。何も知らない普通の青年、碧(あお)。二人は恋に落ち、共に暮らし始めるが、魔の手はすぐそこまで迫っていた‥‥。あまりに残酷で、あまりに切ない、初恋の物語。