【感想】書店員の読書感想メモ。『ヴァンピアーズ(著:アキリ)』があまりにも”尊い”。

※当コラムはあくまで執筆者の私見と個人的な感想です。

『ヴァンピアーズ』(著:アキリ)『月刊サンデーGX』(小学館)にて、2019年3月号より2023年5月号まで連載されていた女子中学生と不老不死の吸血鬼を描く、いわゆる百合漫画作品である。
 1巻の書影にはこれぞまさしく、ふたりの少女が向かい合っている絵、深い赤のデザインは妖艶で美しい印象を受ける。
 漫画の表紙というのはそれだけで読ませるには十分、影響力をもっていると思う。
 無類の百合漫画好きである筆者はそれだけで読み始めたのだ。いわゆるジャケ買いというやつだ。

 だが、この作品の奥深さはそんな薄っぺらい事象では言い表せないものだった。

 簡単にネタバレのないあらすじを…
 中学生の一花は、亡くなった大好きだった祖母の葬式の場、夢に見る王子様のように突然現れた美しい少女アリアに出会う。
 「然るべき相手は自分の心が教えてくれるもの」という祖母の言葉の通りに一花はアリアに一目惚れをする。
 しかしてこの美少女アリアは、長い年月を生きる不老不死の吸血鬼だったのだ。
 そしてアリアは笑顔のまま一花に願う。
「不死者である自分を殺してくれ」と。
 驚いた。これはあらすじを文字に起こしたところでこの作品の面白さの20%さえ伝えられない。
 文章力の乏しさを呪うところだが、『ヴァンピアーズ』の面白さはやはり"漫画"にある。
 美しい絵に、コミカルな表現とシュールな展開、そして耽美な一花とアリアの"コミュニケーション"描写。
 設定だけでは少女漫画の領域のように感じるが、その見せ方はかなり独特。
 それは主人公・女子中学生の一花の主観をもって読者に体験させてくれているようでもある。

 全体的なストーリーはラブ&コメディで展開されるが、心情表現や表情、シリアスで妖艶な雰囲気は繊細に描き分けられており、ちぐはぐな不快感はまったくない。
 むしろそのシュールさこそ『ヴァンピアーズ』であり、キャラクターや物語に奥行と質感を与えている。
 そして、軽快に見せることで読者に対しても難しい印象を与えず、純粋に楽しく読める作品になっている。

 百合漫画としての側面では、前提としたコメディな表現を保っているからこそ
 シリアスに描かれるキャラクターたちの想いや、駆け引き、ここぞの愛の描写が際立つ。
 その瞬間、耽美で妖艶で美しい。
 さらに、一花は思春期的な子供の図太さを見せ、アリアは少女漫画のヒーローのように強くてかっこいいが、ちゃんと"かわいい女の子"の側面をめちゃくちゃ見せてくるところもドキッとする。
 もはやギャグなほど一途で力強い一花の想いは、やがてピュアすぎる爆弾となってカタルシスへと昇華するだろう。
―――これがまた"尊い"のだ。

 もちろん、後半にかけて登場人物たちの心情の変化にも注目したい。
 1巻を読んでいるとき、あなたはすでにこの作品の虜になっているだろう。
 それは吸血鬼の為せる技なのかもしれない。

 コミックスは全9巻、特に最終回はあまりに良すぎて語りたくない。
 もう1巻チラ見して興味さえ持ったらその目で絶対読んでほしい。
 8巻まで読んだ印象と、最終巻の9巻を読んだ後の印象は全く違うものになっているだろう。
ヴァンピアーズ
著:アキリ
(C)アキリ / 小学館 

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ヒトの少女と吸血鬼の少女、小さな恋の物語「然るべき相手は自分の心が教えてくれるもの」14歳の一花は亡き祖母の教えを胸に刻み、まだ見ぬ王子さまが自分の心を奪ってくれるのを待っていた。そんな彼女が心を奪われてしまったのは怖いくらいにきれいでかわいい異国の少女。そして、人の血を吸う吸血鬼。