魔法使いの秘密を知った夢見る少女は母を救うため魔法使いになる。『とんがり帽子のアトリエ』のココがすごい!!

これまで数々のファンタジーの世界で私たちを魅了してきた”魔法”。
それはときに美しく、ときに熾烈に輝き、私たちの想像を膨らませる夢のような奇跡。
繊細で優しく、圧倒的な画力で描かれる漫画『とんがり帽子のアトリエ』。
2022年にアニメ化が発表され、その美しい世界観と感情が複雑に絡み合うドラマに魅了される読者が後を絶たない大人気の本作の魅力を掘り下げていきましょう!

奇跡が寄り添う世界は、キラキラと瞬きとても美しい。
『とんがり帽子のアトリエ』の世界では私たち同様、工夫し懸命に生きる”普通の人間”と、奇跡のような魔法の力を操る”魔法使い”、そしてこの世界に住まう動物たちが存在しています。
人間の日常には、魔法使いの施した生活に寄り添う魔法が身近にあり、ときおりその力で幸せを支えてくれる美しい世界が広がっています。
汚しても綺麗な状態を保つ泉、踏むと光る石畳、空を飛ぶ移動手段の羽根馬車。
素敵な魔法が住まう人々の生活に彩を与えています。
魔法に憧れる少女ココは純粋で無垢な普通の人間。
しかし、その奇跡の仕組みは知られておらず、魔法をかけられるのは魔法使いだけ。ただの人間は魔法使いにはなれない。

本作の主人公は、そんな世界に生き、”魔法使い”を夢見る人間の少女『ココ』。
仕立て屋を営む母と二人暮らしのココは、母の手伝いをこなしながら穏やかな日々を送っていました。
ある日、魔法使い『キーフリー』と出会います。
そのとんがり帽子は魔法使いのシンボル。
突如起こったトラブルをキーフリーが魔法で解決するというが、魔法使いは魔法をかける瞬間を見られてはいけない。

作業場を貸したココは扉の外で誰も入ってこないよう見張りをする事になるが…魔法使いを夢見る少女、気になって仕方がありません。
魔法をかける瞬間を目の当たりにしたココは、かつて幼い頃にお祭りで買った”まほうの絵本”が魔法を行使するための本であった事を知るのです。
夢へのヒントを得たココは”まほうの絵本”に描いてある魔法陣を幾度か試す事に…
そして、とあるページの魔法陣を描いたとき、運命が動きはじめるのです。
ココが描きうつしてしまったのは、禁忌とされる危険な「禁止魔法」のひとつだったのです。
それは家をも飲み込み、そして母親までも石に変えてしまった。
自分の好奇心がこれまでの穏やかな日々を壊してしまったことに涙する少女だが、助けにきた魔法使いキーフリーは「きみはこれから魔法使いになるんだ」と提案する。
そしてココは、母を救うための手がかりを探すため、キーフリーの弟子となり憧れの”魔法使い”となるのです。

✔ココと見る魔法使いの世界

物語が動きはじめると同時に、この世界の解像度もより高いものとなっていきます。
人間とは違う魔法使いたちの生活や、魔法の仕組みと歴史。
ココと同じ目線で、少しずつ見えてくるアートな世界観に読者の心も奪われます。
細部までこだわりぬき描きだされる世界をココの目を通して体験させてくれます。
そんな没入している中、ふと容赦なく描写される暗い影はより不気味さを増し、ひたひたと迫ってくるのです。
ココがたどり着く先とは?冒険の果てに見るものとは?
緻密で重厚なハイファンタジーに酔いしれましょう。

✔夢を叶えるのは環境?才能?それとも自身?

スポーツ選手になりたい、宇宙飛行士になりたい、アイドルになりたい…。
私達は様々な夢や希望を胸に抱き、今日を懸命に生きています。
しかし、理想の世界は狭き門、その夢の大きさから挫折する事も…。
ふと考えてしまうのは、自分自身をとりまく環境や、持っている能力へのギャップ。
人々の様々な想いやドラマがより深くこの世界へ没入させてくれる
本作では、”夢”や”憧れ”といったものへの想いや向き合い方も強く描かれています。
ココは普通の人間で、自身の生まれから魔法使いに憧れがあったが、普通では届かない夢でした。
ひょんなことから魔法の秘密を知りますが、それはココの夢を諦められない強い気持ちと、大きすぎる代償があります。
探求する想いと運命が交錯して夢を叶えますが、その現実は厳しくキラキラとしたものだけではありません。
誰しも得意・不得意がある。それは憧れの存在であっても。
夢を追い求める事は罪なのか…夢を叶えてもどうにもできない事は諦めるしかないのか…そんな葛藤まで濃密なドラマと共に描かれています。
理想と現実の狭間で夢みる少女はひとつずつ成長し、読者である私達も感動や苦難を追体験することでこの作品の魅力に気が付かされます。
ただの夢物語ではない、魔法使いたちは世界の境界を越えて、現実に生きる私達に夢の向こうに待ち受ける苦難と希望を教えてくれる作品だと、私は思います。
あなたは『とんがり帽子のアトリエ』に何を見るでしょうか。
ココが”描く”未来はどうなるのか、見届けましょう。

▼ 作品情報 ▼

とんがり帽子のアトリエ

著者:白浜鴎


(C)白浜鴎 / 講談社