【感想】書店員の読書感想メモ。『画家とAI(著:樺ユキ)』の本質的なテーマとは

※当コラムはあくまで執筆者の私見と個人的な感想です。

今回読んだのは『画家とAI』(著:樺ユキ)。
講談社 「モーニング・ツー・WEB」で連載されたこの作品は、X(旧Twitter)では1000万以上のインプレッションを獲得した話題になった作品。
そのタイトルから、近年発展しつづけるAI技術によるクリエイターたちを取り巻く環境に迫るようなものを連想させられるが、
本作の描く本質的なテーマは「人間の美しさ」ではないだろうか…と思う。

戦争の影が忍び寄る小さな国からはじまる。
未来ある若き画家のモーリスは「やり方を見せれば、すぐに同じことができる」新種の生物ノームと出会い、その能力に感激し共に過ごすことに。
しかし、他の画家たちは自分たちの仕事が奪われると危機感を抱き、反対運動をおこす。
モーリスはノームたちと共存できる道を探し、奔走する―――。というあらすじだ。

樺ユキ先生のやわらかなタッチと、豊かな表現力と描写力で描かれる『画家とAI』。
さわやかな朝日と木洩れ日に包まれたようなスタートを切るこの物語は、やがて燻る煙の匂いをまとって夜を迎える。
その夜を超えた先には夜明けか終焉か。
この数年、私達の身近であり毎日のように報道される各地の戦争やAI問題を彷彿とさせる刺激的な内容に釘付けにされ、エンターテイメントとしてドラマティックに展開されるストーリーに胸を打たれ、映画を観ているような没入感に興奮。
芸術とは、戦争とは、AIとは、そして人間とは。
すぐそこに迫る私達の身近な問題にどう付き合っていくべきなのかを考えさせられる一作となっている。

読む前と後に見る私達の世界は、少し違っていて、それが美しいものか、泥臭いものかは個人の感性によるだろう。
クリエイターを目指す若者にも、世界を知った先輩たちにも一度は読んでほしいおすすめの作品だ。
画家とAI
著:樺ユキ
(C)樺ユキ/講談社
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戦争の影が忍び寄る小さな国オートランド。若き画家モーリスは「やり方を見せれば、すぐに同じことができる」新種の生物ノームを手に入れる。ノームの能力に感激し、可愛がるモーリスだったが、他の画家仲間は「自分の仕事」を奪われるとノームの使用を禁止し、殺そうとする反対運動を起こす。モーリスは多くの可能性を秘めたノームを守るためこ...