『18歳、新妻、不倫します。』は、不穏なタイトルとは裏腹の“高飛車姫とオレ様騎士”の偽装結婚・王道ドラマ!

六道輪廻をめぐる、我々の
「地獄行き待ったなし片道切符」
それが不倫である。
 若いみそらで新妻?更に不倫??と、何やら不穏なタイトルの本作品。

 一体どんな内容なのかしら……と、恐るおそる読みだしてみれば、大海原。オーケー、なるほどね!
 女の本懐を遂げさせてくれる完成度の高いエンターテイメントに、私は大急ぎで、ポップコーンバケツとLサイズのコーラを用意したのです。
 さぁ、前置きなんかすっ飛ばして本編に行きましょう!ド派手な舞台の幕開けだ!
 物語の舞台は日本のどこかにありながら、「日本国憲法が通用しない」という街、『三条帝国』!(映画化された某F県の有名な心霊スポットではありません。)
アウトローだから……、不倫も許されるのかな?
に、日本の中にエンパイアですって!?
 なんでも、公家と豪商の血を引く三条の一族は明治時代から鉄鋼事業で財を成し、そこから手広く事業を展開。今では街のほとんどの人が三条関連の企業に就業しているのだとか。

 一族が絶対的な権力と、責務を持つこの街で、本家「三条のお姫様」が高校を卒業すると同時に婚姻を結ぶ。そんな場面より、ストーリーは始まります。

✔高飛車な姫の相手はオレ様な騎士!

 街を牛耳る三条帝国。その本家の一人娘が、こちらの三条明花ちゃん。
 美しく、慎ましやかで、家柄はもちろん、気立ても良く――、と非の打ちどころのないおひいさま。
 なのですが、それは表のお顔(笑)。三条の次期当主として毅然と振る舞う一方、まだうら若く18歳の娘さんらしいあどけなさも。
 しかし、そんな少女らしさが許されない立場だからこそ高飛車な態度を取る、負けん気が強く、芯のしっかりとしたお姫様なのです。

 そして、そんなお姫様と結納するのが、明花が10歳の頃から付き人として仕えてきた藤宮こう
 姫のそばに常に控え、彼女を守ってきた、正に頼れる騎士のような存在です。
 しかし、そんな彼も曲者で、明花と二人きりのときは自信たっぷりなオレ様な顔を見せることも!いずれにせよ長い付き合いのある彼と彼女の間には、強い絆が感じられます。

 そんな二人の「身分を超えての純愛結婚」に街中がハッピーなお祝いムードに。確かにこれは、舞台がエンパイアでもないと釣り合わないってものですわ。
 王道設定に私のポップコーンバケツが爆ぜそう!

……しかし、このお似合いな二人は
実は偽装結婚なのです!

✔「純愛」を演じる偽装結婚はハラハラの連続?

三条のお姫様は好きなようには生きられない。
 富も名誉も思いのまま。な、人生は意外に大変なようです。街の絶対の有力者である三条一族だからこそ、敵は尽きない様子。
 明花自身、子どもの頃は誘拐されたり、立場ゆえに恨みを買ったりと、お姫様の人生は波瀾万丈です。

 「三条のたった一人の跡取りとして、婿を迎える」
 賢い明花自身は役目を理解した上で、三条の街を出て、大学へ進学するという夢を諦めます。
 けれども両親の切望により、高校を卒業したら名家の男性と即お見合い結婚させられることに!
 色々なことが叶えられない立場とわかっていても、唯一の願いはどうしても譲れない。それが――、
「どうしても恋がしたいのっ……、女遊びも不倫も自由でいいから、私と形だけの結婚をして!」
 自分の歩む道はままならない。でも、心だけは自由でいたいからと、付き人である煌に“偽装結婚”を持ちかける明花。
 そんな彼女の思いを汲み、ずっと彼女を守り、支えてきた煌はその願いを受け入れることになるのです。

表向きは純愛結婚。しかし、実際は不倫OKな偽装結婚!でも、煌の気持ちは……?

 こうして二人は三条の街中を欺く純愛夫婦を演じつつ、明花は本当の恋をするために大立ち回りすることに。(いよっ歌舞伎!)
 お見合い結婚を免れ「これで恋ができる!」と、ウキウキの明花。

 ところがどっこい、愛のない結婚をしたはずの夫:煌の方は一途に明花を愛している!と、知ることになり、てぇへんだ~!いよいよ話が面白くなってゆくわけなのです。
常に完璧で自信たっぷり、大人な彼も、妻の前では余裕なし!?さぁさぁどうする明花ちゃん!
本作品を描くのは華やかな世界設定に根強いファンが多い、わたなべ志穂先生
 執筆は「なべしほ先生」の愛称で読者に親しまれる、わたなべ志穂先生。
 愛されるだけじゃない、個性的で魅力あるヒロインを次々に描き出し、そのお相手も超ハンサムなホストに始まり、セレブ、辣腕執刀医、ホテル王と、錚々たる顔ぶれ。
 読めばたちまち気持ちの上がる!華やかで繚乱な恋愛描写を得意とするベテラン作家です。(画面のきらめきがスゴイのだ。)

 当作品でも、「黒スーツで剣を持った騎士にお姫様を守ってほしい!」というアイディアから生まれたことを語っていますが、“姫と騎士”という女子憧れの王道設定を、日本を舞台にやりきっちゃうところがもう、天晴れよ。
 はぁ~、Lサイズコーラおかわりいただけるかしら?

✔一途な夫に愛されて、果たして不倫はできるのか!

 自由に生きられない三条の姫として選んだ、 「恋をするための不倫OKな偽装結婚」。そのはずが、夫になった煌は一途に自分を愛していて――?
 彼のまっすぐな好意や大人な魅力にどきどきさせられるのが悔しいばかりの明花。
 ときめく度に、「絶対不倫してやるんだから!」と、息巻くのですが、姫や、それいつも敗北を喫する悪役の捨て台詞みたいになっていますゾ。
「恋をするなら相手はオレで、了解?奥様」
 始めは不穏なタイトルに戸惑ってしまいましたが、良かった。だってこれは……、どう考えても「不倫ができない」話じゃないですか!?
 むしろできるの?こんなに美しい旦那さんに一途に愛されて……!私ならできない!
 しかし、ラストがわかるから面白くないなんてことはないのです。

 だって、きみ、『(全長)18ⅿ、新種鮫、勝ちにいきます。』ってタイトルで、【主演:スキンヘッドで筋骨隆々のアクション俳優】の映画が封切りしたら、「結末がわかるから」って理由で観に行かないのですか?

 私は観ますよ、最前列で。

 結末は確かに大切ですが、ストーリーにおいては過程こそがドラマ!
 それに、今は矢印がそっぽ向いているヒロイン:明花の心がどう移り変わっていくのか、ハラハラしつつも見守りたいもの。ましてや、実際にどうなるかはまだわからないではありませんか!

 見目麗しく、常に自分を守ってくれる一途な騎士からの熱烈アプローチにときめきつつ、三条のお姫様は果たして不倫できるのでしょうか?
 私は応援したいと思います(旦那さんをね)。がんばれー!

▼ 作品情報 ▼

18歳、新妻、不倫します。

著者:わたなべ志穂


(C)わたなべ志穂 / 小学館