“神”アシスタントの彼女は“姫”で異星人、それとも――?『おとなりに銀河』が恋する日常を特別に美しく描き出す

異性は異星人?
 「男と女のあいだには深い河がある……」と謡曲の歌詞にもあるように、肉体的にはもちろん、脳の構造、考え方にも違いがあることが科学的にも実証されている男性と、女性。

 毎年、男女の“違い”を題材にした書籍がヒットするように、「わかる! 女の人って(男の人って)よくわからない!」と混乱し、だからこそ理解したいと思っている方も多いのではないでしょうか。もちろん意中の人や、パートナーのある方ならなおさらです。
 でも、そんな隣にいてくれる異性が、違う星の人かもしれないとしたら――?
男女の出会いは、未知との遭遇!
 2023年にアニメ化も決定し、人気急上昇中の『おとなりに銀河』
 ジャンルはSF純愛ラブコメディ? となるのかもしれませんが、その一言で表すには勿体ないほど、本品の味わいは……深い!
 そう、まるで男女の間に流れる河のように底が見えません。そんな同作の魅力に迫っていきましょう!

✔神アシさんの正体は、姫?

少女漫画家のもとに訪れた神アシスタント、その正体は姫でした
 オタク用語で“神”とは、技量や、対応、作品の出来がずば抜けて素晴らしいことを指します。「ふはぁ~! こんなの人の業ではないわぁ、本当にありがとうございます~!」という感謝や感動を一言に凝縮して――、すなわち神!※ライター個人の解釈です。
 駆け出し少女漫画家である久我一郎くが いちろうくんの元に、それも原稿〆切り直前のド修羅場に突如、原稿の手伝いに応募してやってきた美女、五色ごしきしおりさんはまさに”神アシスタント”さんでした。
早くて正確、それでいて絵柄を理解してくれている
 初対面とは思えぬ正確さとスピードで原稿をサポートしてくれる、五色さんに感謝・感激の久我くん。なんとか原稿を納品し、ほっとしていると、横たわる五色さん(お疲れ様でした)の腰に、仕事道具のGペンが刺さっているのを見つけます。
 脱力して倒れた弾みで刺さってしまったのかも……、とペンに触れた瞬間、拡がったのは突然の宇宙。
 それは、ペンではなく、五色さんの体から“生えていた棘”!
 しかも触れることにより、「あなたとわたくしの棘が繋がってしまいました」と、なんと婚姻(!)関係を結ぶことに。
 そう、麗しい五色さんは“神アシスタント”ではなくある星の“姫”だったのです!
 ってそんなむちゃくちゃな!

✔初対面から突然の婚約!

わたくしは宇宙から流れ着いた流れ星の民の姫。しきたりにより棘で繋がれたものと婚姻関係が成されます
 実はこの作品、単行本冒頭のカラーページにて、「ひめ~」と呼びかけられる五色さんがボートに乗り、何やら遠くへと旅立っていく場面から始まっています。どうやら五色さんは小さな離島よりやってきた異文化……、むしろ異なる星のお姫様なようなのです。

 でも、徹夜明けで原稿を納品したばかりの久我くんは、そんな超展開についていけるはずもなく……。「そういうご実家のしきたりなのかな」と解釈。
 そう、棘なる未知の器官は出てくるものの久我くんの対応や、どこか浮世離れした五色さんの雰囲気に、読者もふわふわとした気持ちでストーリーを読み進めていくことに。
 しかし、この荒唐無稽な設定はどうやらガチ! なようなのです。
姫を不快にさせると、婚約者に下される“罰”
 姫? 星? 銀河?と事態を飲み込めない久我くんと読者の我々。
 しかし、不思議な五色さんのいうことはどうやら本当のようで、姫である五色さんに不敬を働くと、婚姻関係にあたる久我くんの体には様々な異変が現れるように……。

✔生活苦と少女漫画と突然の銀河

青息吐息な生活に突然銀河の雨が降る
 久我くんは20代の駆け出しの少女漫画家。両親を亡くしている彼は幼い姉弟を養うために働かなくてはならず、そうして選んだ「自分にできること」が少女漫画を描くことだったと言います。
 一方親の選んだ相手と婚姻するはずだった五色さんが島を出たのは、漫画から自由な恋や人生の素晴らしさを学んだから。
 自分が感動をもらった漫画に恩返しがしたい気持ちもあり、模写して練習したのが雑誌の中で最もシンプルな絵柄だった久我くんの作品だったようです。
大いなる星の意思は制御できません。ですが、事故の結果とはいえこのような理不尽な目に遭わせるつもりはありませんでした
 そんな彼女にとっても予期せぬ形で棘が繋がってしまったこと、そうした罰により久我くんの体調が乱高下することには戸惑いもあるようで……。まずは婚姻契約解消を目標にしながら、久我くんとは「まずは恋愛を目指したい」と希望をします。
 ってそんなむちゃくちゃな!

 こうして久我くんは、幼い姉弟たちに事情を隠しながら面倒を見て、事故によって結ばれてしまった摩訶不思議な婚姻解消の糸口を探し、少女漫画の連載を続けながら、同じ屋根の下、五色さんとも共同生活がスタートしてしまうのです。
 マルチタスクが、すごい。

✔恋愛初心者のふたり。だからこそ

『甘々と稲妻』で多くの反響を呼んだ雨隠ギド先生の最新作!
 生き生きとしたキャラクターたちの様々な表情を描き、ありふれた食卓にある、「食べ物が美味しいことは幸せ」という当然を鮮烈に描いた前作『甘々と稲妻』で話題を浚った雨隠ギド先生。
 瑞々しい感性が紡ぎ出す物語には、日常の中にある透けるような幸福に光を当て、見えないなにかを浮き彫りする力があるように感じます。
 今作にもそんな「恋することの幸福」が大事に綴られている点が印象的でした。
婚姻関係の解消のために動いていたふたり、でもいつしか気持ちが寄り添って……
 入居にあたり渡された五色さんの入居届の書類には住所は喚姫島(よびじま)とあり、戸籍の実在する彼女に「果たして五色さんは本当に宇宙人なのか?」と戸惑う久我くん。
 アシスタントとして、婚姻関係の解消を探すためにと彼女と生活を共にする中で、そのまっすぐさに心を惹かれていきます。
 一方で家族思いで誠実な久我くんに接する内に五色さんも……?
 お互いを意識し始めた二人ですが、かたや会う人には限られる少女漫画家であり、かたや辺境の島のお姫様……、恋愛初心者なふたりだからこそ、その歩みは遅く、しかし、だからこそ丁寧に重ねていく一歩一歩に深い味わいを感じます。
未知の存在だから、あなたのことを教えて欲しい
 名を知ることは愛の始まりというように、異性に限らず、異文化や、異国の自分と異なる相手を知りたいと思うことは、もっと近づきたいということ。
 謎の美女、五色さんと、初対面の立ち位置から突然婚約関係になってしまった久我くんもそんな一人なのではないでしょうか。
 そして知りたいと思う気持ちが一方通行ではないことは、とても幸福で、大事にしたいことのように思えます。

▼ 作品情報 ▼

おとなりに銀河

著:雨隠ギド


(C)雨隠ギド/講談社