※この記事は、あくまで筆者の個人的な考察や感想です。おすすめのマンガの面白さが伝われば幸いです。
格闘ゲーム(以下、格ゲー)をご存じだろうか?
基本的にコマンド入力をし、行動を制御しながら設定された体力を削り合う1vs1の対戦ゲームだ。
昭和・平成の時代のゲームセンターといえば、格闘ゲームといえるほど歴史のあるものというイメージの人が多いだろう。
「ストリートファイター」シリーズをはじめ、「THE KING OF FIGHTERS」「バーチャファイター」など、国内・外でも爆発的人気を残したタイトルも数多い。
昨今では、e-sportsと呼ばれるゲームの競技シーンが人気なのは知っているだろう。FPSやMOBAなどはお馴染みとして、昔から競技シーンが世界的に人気の格ゲーも盛り上がり続けている。
さらに、「ストリートファイター6」の発売により、多くの人気ストリーマーが注目し、ゲーム実況配信はもちろん、独自の大会などを主催するなど、
これまでになかった若者も巻き込んだムーブメントを起こしている。いわば"スト6バブル"といえるほど格ゲーシーンが熱いのだ。
今年の「STREET FIGHTER LEAGUE(SFL)」も、昨年より初出場したプロeスポーツチーム「Crazy Raccoon」「REJECT」をはじめ、FPSの競技シーンでも有名な「ZETA DIVISION」が参戦するなど注目を集めている。
熱くなっている背景には、格ゲーファンにはわかるのだが、対戦における"密度"が非常に高く、試合を通して涙する視聴者もいるほどなのだ。
高速ジャンケンとも例えられる格ゲーだが、見ただけでわかる試合の優劣と、派手な必殺技の演出も相まって試合の流れがわかりやすいのも、見ていて楽しい理由だ。
さらに、一瞬における行動の選択肢の多さや、緻密なコマンド入力により、プレイヤーによってプレイスタイルに個性が出るのも魅力的であり、ドラマが垣間見えるのも味わい深い。
その格ゲーシーンへの理解の解像度があまりにも高すぎるマンガ作品がある。
おそらく格ゲーマーなら知っているであろう、『対ありでした。 ~お嬢さまは格闘ゲームなんてしない~』だ。
女子校に通うお嬢様が、イメージからかけ離れた"格闘ゲーム"を通じて魅せるドラマティックな漫画作品。
その中から、なぜ格ゲーの競技シーンが面白いのかがわかるエピソードを紹介したい。
『対ありでした。 ~お嬢さまは格闘ゲームなんてしない~』6巻の32話「行っちまってる」だ。
作中の大型格ゲー大会「EXjp」にて「格ゲーが大好きな主人公・白百合」と「格ゲーに真剣に向き合う亜里沙」の試合。
熾烈な一進一退の互角な試合を見せているが、その試合も大詰めというところ、亜里沙も格下だと思っていた白百合を好敵手と認めお互いに真剣に向き合うのだが、
この漫画のすごいところは漫画で表現が難しい"ゲーム内の試合の流れ"と"そこにある選手の感情"を細かく描いているところだ。
なぜこう行動したのか、なぜこの技を出したのか、格ゲーによる特有の読みあいと「負けたくない」「悔しい」「苦しい」などのプレイヤーの心情が濃く表現されている。
まさに、格ゲー競技シーンの試合を見せてくれるのだ。
さらに、格ゲー特有の用語なども細かく説明してくれているので、非常にわかりやすくなっているのも没入感を高めている。
作中では外連味溢れる、「鼻血」を出しながら思考をフル回転させて試合をしているのがそれも読者に訴えかける感情表現として、胸を打たれる。
それぞれ生まれも育ちも、抱えているものも違い、格ゲーへの想いや考え方の違いがある。
しかし、試合を通じて相手を知ることで、もっと対戦したいと感じていくまでの過程にカタルシスを感じるだろう。
「対戦相手(こいつ)のことしか 見えない―――」
試合の最中、ゾーンに入った亜里沙のモノローグ。
相手が何を考えてどう行動するのか、それに自分はどう対応し、戦況を有利にするのか、もはや対話のようなやりとり。
熾烈な争いを繰り広げ、会場の歓声なども上がる中、虚無のような表情、過度な集中に至った亜里沙がそこに気が付いた。
本気に向き合っている亜里沙は己のプライドで闘ってきた中、白百合と闘うことでたどり着いた次元。
そして、その対戦を見ていた白百合の一番のライバルであり友人・綾は…
「私があいつの 一番の ライバル そのつもりだったのに―――」
と、悔しそうにつぶやく。
これだけでもどれだけのドラマがあり、熱い展開だったかわかるだろう。
この対決に至るまでの物語の総決算とも言えるストーリーの行く末をぜひ見届けてほしい。
『対ありでした。』第一部を締めくくるにふさわしい激熱シーンだが、ここに至るまでの物語を含めても、胸を打たれること間違いなし。
格ゲーを知りたい人も、好きな人も、全員におすすめしたいマンガだ。
また、TVアニメ化も発表されている。TVアニメ版では「ストリートファイター6」が協力企業として発表されているので、実施されるであろうコラボも注目したい。
対ありでした。
【今回のおすすめ漫画】対ありでした。 ~お嬢さまは格闘ゲームなんてしない~ / 6
著:江島絵理
出版社:KADOKAWA
レーベル:MFコミックス フラッパーシリーズ