青く輝く星が奏でる熱い炎。響く音に胸をかき鳴らされる傑作『BLUE GIANT』

※【再掲】一部誤字を修正いたしました。
クールでアツい!最高のジャズライブが開幕する!
 夜。街の中にいても、空を見上げればいくつかの星が見えます。
 暗闇の中で瞬く光は3000~1万度以上の星の火によるもの。目を凝らすと、その色の違いに気がつくかもしれません。
 熱された鉄が赤くなり、より高温になると黄色く、白へと変化していくように、炎は温度によって色が変わります。生まれたばかりの巨星の火は青く、冴え冴えとしていながら、想像も出来ないほどの熱を秘めている。
 青く、激しく、燃える星の火、それが“ブルージャイアント”なのです。

パァーーーー!
アアーーーーーー!
アアアアアーーーー
サックスが“鳴る”、音楽が“聞こえる”漫画と多くの読者を魅了する傑作
 『BLUE GIANT』は2013年に「ビッグコミック」にて連載を開始以来、第20回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を始め、多くの漫画賞を受賞。コミックスのシリーズ累計部数は890万部にも及ぶ、正に巨星級のヒット作品です。
 2023年には映画化の公開も始まり、多くの著名人からも絶賛の声が寄せられる本作。一方で、渋すぎる魅力故にまだ未読……、という方も多いのではないでしょうか。
 シリーズ連載もヒートアップし、今後も注目が高まるであろう今こそ、クールで最高に格好良く、そしてアツい! 正に「ジャズ」が持つ魅力を体現した本作が紡ぐ、その音色に迫っていきましょう。

✔心を、音に打たれる!

絶対にオレは世界一のジャズプレイヤーに、なる。
正に恋は突然!友人に連れられて行ったライブにてジャズに出合い、魅了されてしまった大。そして彼のストーリーは始まるのです。
 東北、仙台市の長く厳しい冬の始まり。広瀬川の川沿いの土手にて、風花の舞う宵闇の中、一人テナーサックスを吹く少年こそが本作の主人公、宮本大みやもとだい
 バスケ部所属の高校3年生である彼が魅了されたのは、友人に連れられて見に行ったジャズライブだったのです。学生時代最後の引退試合を終え、やり残したことはないと満足の笑顔。それでもがむしゃらに、毎日、サックスを吹き続けます。
ダンクシュートを打つ身長も、ジャンプ力もない。身体には限界がある。でも音にはきっと…………
 雨の日も、雪の日もサックスを鳴らす日々、何が少年をここまで音にひたむきにさせるのでしょう? それを支えるのは「ある日、出合ったジャズに、音楽に、心を打たれた」という、純粋でまっすぐな想いだけ。
 ジャズに打たれ、音の無限を信じるひたむきさでただ、ただ、吹き続けるのです。

✔まっすぐなスウィングに惚れる!

オレはジャズがオシャレだから好きなんじゃなくて、ジャスが、スゲエ熱くて激しいから。
 来る日も来る日も河原でサックスを吹き鳴らす、大。級友にからかわれるのも当然で、なんと彼は楽譜は読めない、スタンダードナンバーも知らない、ジャズのドシロート(あらま!)!なのです。
 そもそもジャズ……自体、青春を送る若人にとってはなんだか遠い文化? CDショップに行ってもジャズコーナーに行けば「大人の」「オシャレな」「シックの」といったポップが目に付きます。ジャズといえば喫茶店などで静かなBGMとして流れるイメージですが、大は言います。

ジャズが、スゲエ熱くて激しいから、好きなんだ。
 あるのは情熱だけ。でも彼の音楽には何かがある
 そう、『BLUE GIANT』はジャズに魅せられた少年宮本大が、テナーサックス一つで音楽の世界へと足を踏み入れ、世界一のジャズプレイヤーへと成長していくストーリーなのです。
 卒業を控え、同級が進学や就職を志す中、彼はひたすらに河原でサックスを吹く。上手く説明できないけれど、ただひたすらに好きという理由で。
 「スウィング(振る)」とはジャズでは吹き鳴らす、メロディを鳴らし奏でること。どんな風に曲を演じるかでプレイヤーの個性や姿勢が表れます。少年大の音楽に向き合う姿はひたすらまっすぐで、ひたむきです。
 あの日心を打った音が、ジャズが好きだから、情熱一本を糧にした向き合い方のなんと剥き出しで激しく、まっすぐなことでしょう。
 若さゆえなのか、そのあまりの無謀さに、思わず心配になってしまいますが……、読み進める内に彼の内にある確かな才能に誰もが気づき始めるのです。

✔セッションに痺れる!

僕は好きだな、きみの音
 ただひたすらに好きで、好きで、好きなだけ――、毎日吹き鳴らし、練習できるほどに。
 それだけひたむきである大の姿に、いつしか彼を支えようとする人が現れるようになります。
 テナーサックスのマウスピースを買い求める内に、楽器屋の主人は大に興味を持ちます。耳コピーによるひたすらの独奏。でも、彼の音にはなにかがある。

 そこで、なんとジャズライブに出てみないかと彼に声を掛けるのです。大!この子楽譜も読めないのに!
 河原の独奏から、突然のバーで開かれるライブへの出演が決定。初めての聴衆からの大の奏でる音への感想は――?

バカデカイ音で迷惑だべっちゃアンタは!!
 ジャズにおける「セッション」とは楽器同士の音合わせであり、ぶつかりでもあります。ジャズプレーヤーに向かって伸びる一本道で出合う様々な人。その一つひとつのドラマもこの作品の魅力。
 初ライブで、散々に言われてしまった大。少しばかり気落ちしますが、その程度では彼のジャズへの情熱の炎は消えません。
 むしろ一層激しく燃え上がり、その後初めての師となるジャズマン、由井と出会うのです。
 そして、初ライブで罵声を浴びさせたこちらのおいちゃんともやがて再会するのですが……。どんな風に、そしてそのときどんなセッションが起こるかは是非本編でお楽しみください。

✔これがジャズ

吹く。Tシャツが気持ち悪くても、太陽が痛くても…吹く!!
 音に打たれ、素人だった宮本大が、ただひたすらにジャズへの想いを糧にまっすぐに吹く、吹く、吹く日々。
 彼があまりにもひたむきだから。父に、兄に、周りの大人に背を押されながらもサックスを吹きまくります。
 それまでは好きなCDをひたすらに耳でまねて、鳴らすだけだった大ですが、師となるジャズ奏者、由井のレッスンを受けるようになり、段々と吹き鳴らすだけだった音は、奏でる音楽へと変化していくのです。
そして迎えた高校生活最後の文化祭。
 軽音部の発表を控えた前座として、舞台に上がる大。軽音部からはお笑い枠と評されながらも壇上に上がる人生2度目のライブで、彼の才能は大きく開花します。

今日はオレ、勝負の日なんすよ。ジャズの良さ、ジャズがカッケエんだってのを、圧倒して見せないとならないんで。
 彼が吹き鳴らしたのはジョン・コルトレーンの「カウントダウン」。手にはサックス一本、それとダン、と打ち鳴らす足拍子。でも、その迫力に、場内は圧倒されてしまいます。
 次曲に選んだのは会場に集まった、生徒の誰もが知っている曲。そう、「校歌」を音楽教師、黒木先生と共に奏でます。
 そのアレンジに誰もがびっくり。そう、スウィングする曲のアレンジ、遊びのような即興がジャズの魅力でもあるのです。
 ピアノを弾く黒木先生で印象的だったのは、彼女が語った「音楽は、人間にとって絶対に必要なものだって先生思うの」という言葉。
 衣食住の乏しかった太古から世界中の土地で音楽は生まれてきた。
 いつか学び舎を離れ大人になっていく生徒たちへ、私たちには心があるから、生きていくことに直接関わらなくても、人生には音楽が必要と告げます。
世界一のジャズプレーヤーを目指し、仙台を離れ、大の奏でる音は、より豊かなメロディーへ
 高校卒業を経て、プロのジャズプレイヤーを目指す大は、音楽で、ジャズで食べていくための通過点として東京への上京を決意。
 そこで才能溢れるピアニスト、さらには意外なドラマーを迎え、メロディーはより多彩なものへと進化していくのです。

 ある日心を打たれ、ただひたすらに吹き鳴らすことで出合い、それを糧に音楽が花開いていく。巻を読み進めるほどに大が咲かせる音楽に耳が研ぎ澄まされていく。
 青く輝く星が奏でる熱い火。その響く音に胸をかき鳴らされる傑作です。

▼ 作品情報 ▼

BLUE GIANT

著:石塚真一


(C)石塚真一 / 小学館