前回は、「ファンタジーにおけるお決まり」といったテーマで語りましたが、今回はもう少し踏み込んで、ファンタジーというジャンル自体を考えていこうと思う。 国内でも様々なファンタジー作品が公開され続けているものの、その内容は多様性を極め「そもそもこれはファンタジーなのか」、「想像していたものより印象が違う」など読み方や向き合い方さえも、読者側にある程度のアンテナを求められることもしばしば。 1ジャンルにそんなに複数の概念があるのか…と身構えてしまうかもしれないが、書店員としても備忘録的にまとめておきたいものでもあるので、今回は少しでも読み解き方の幅を広げる意味で考えてみよう。
※当コラムには筆者の個人的感想と考察が含まれていますのであしからず。(2024年10月時点)
①そもそも”ファンタジー”とは?
ファンタジー作品とは、超自然的、幻想的、空想的なものを、プロットの主要的な軸に据えた、あるいは主題にしたフィクション作品のひとつのジャンル。 つまり、幻想的なものを描いた作品の事を指す。もともとは文学のジャンルのひとつでもある。 国内では、前回も書いたように小説やゲームによって広がったイメージで想像する方も多いだろうが、文芸としての「ファンタジー」は幻想文学とも言われるサブジャンルとしても扱われる。 現実ではありえない事象や世界を描くファンタジーだが、ではサイエンスフィクション(以下、SF)とはどう違うのかという議論もたびたび目にするかもしれない。 SFは世界観や物語の展開において自然科学の法則が重要な役回りとなるのに対し、ファンタジーは現実にはありえない魔法など空想や象徴が重要な役回りとなるとされている。 ただ、SFでも現実には存在しない科学根拠なども取り入れられるなど、ファンタジーとの線引きが難しい側面もある。さらにはSFファンタジーとも呼ばれることもあるため、ややこしい。 今回は、漫画が好きな私たちが想像する、いわゆる剣と魔法のファンタジーを主軸として考えたときのファンタジーのジャンル細分化について続けようと思う。
②ハイ・ファンタジーとロー・ファンタジー
「やっぱ、ファンタジー読むならハイ・ファンタジーっしょ」という友人がいた。 わかる、ファンタジーともいえど想像するのはハイ・ファンタジーだよな。 しかし、「この作品はハイ・ファンタジーなのか?」という気持ちもあったりするが、いちいちつっこむとお互い疲弊するので避けてきた…。 ハイ・ファンタジーってなんだ!? おおむね、架空の神話的世界で英雄が活躍する大作とされており、たまにヒロイック・ファンタジーとも呼ばれる。代表的な作品としてJ.R.Rトールキンの『指輪物語』などが挙げられる事も多いだろう。 一貫していることに、描かれる架空世界は現実世界とは違う法則で成り立っており、超常的な現象や、思想で物語が紡がれる。日本では『ロードス島戦記』など、爆発的にヒットしたライトノベルやTRPG作品が有名だろう。 漫画では、『とんがり帽子のアトリエ』や『とつくにの少女』を筆者はおすすめしたい。 そして、対をなすように「ロー・ファンタジー」と呼ばれるサブジャンルもある。(音楽ジャンル並みに細かいな…) いわゆる世界が一貫して幻想的な法則で紡がれる「ハイ・ファンタジー」に対して、「ロー・ファンタジー」は現実世界に魔法の概念が存在していたり、架空世界でも合理的で親しみのある世界に魔法の要素が含まれるものとなる。(ここでは決して下回る意味での"ロー"ではない。) 『ハリー・ポッター』シリーズや、振れ幅は広くなるが『鬼滅の刃』などもこの定義とすると、「ロー・ファンタジー」の一種であるといえるだろう。 幻想的、魔法的な要素が存在するからこれはファンタジーだと言っても、考え方は様々。 自分の好きなファンタジーを求めるなら、細分化したサブジャンルを抑えておきたいところだ。
とんがり帽子のアトリエ :電子書籍のソク読み・無料試し読み
小さな村の少女・ココは、昔から魔法使いにあこがれを抱いていた。だが、生まれた時から魔法を使えない人は魔法使いになれないし、魔法をかける瞬間を見てはならない……。そのため、魔法使いになる夢は諦めていた。だが、ある日、村を訪れた魔法使い・キーフリーが魔法を使うところを見てしまい……。これは少女に訪れた、絶望と希望の物語。
とつくにの少女 :電子書籍のソク読み・無料試し読み
新たな人外×少女の物語、始まる――。分かたれる世界でも、繋がり合う心。 昔々、遠く遥けき地に二つの国ありて――。触れると呪われるという異形の者棲まう『外』と、人間が住まう『内』で分かたれた世界。本来であれば、交わらぬはずのふたりが出会った時、小さな物語が密やかに動き出す。これは朝と夜――その深い断絶の宵に佇む、ふたりの...
③さらに派生する『ダークファンタジー』
大きいファンタジーのくくりの中でも、ゲーム、漫画問わずサブジャンルとして特に人気が高いものの中に『ダーク・ファンタジー』というジャンルがある。 暗鬱な設定や作風が特徴で、特に得たいの知れない存在が登場したり、グロテスクな表現やおびただしい死の表現などの要素を抱える作品。 実は、『ダーク・ファンタジー』というジャンルに属するとされる作品は、14世紀に書かれた『ガウェイン卿と緑の騎士』など古くから存在している。 (『ダーク・ファンタジー』という語を用いるようになったのは別であるのだが) 実際、ハイ・ファンタジーなどの作品との線引き自体は難しいもので、作風によって出版社が判断・読み手の解釈・作家の示したメッセージなどでサブジャンル的に『ダーク・ファンタジー』と呼ばれる作品も多い。 状態的な悲壮感や不条理な死が訪れるという恐怖は、ホラーにも似た要素も含んでおり、人間の残酷な心理や内面をえぐった表現や、予定調和的なハッピーエンドに向かった展開を嫌ったものが多いのが特徴的だろう。 漫画では『ベルセルク』や最近では『ゴブリンスレイヤー』などが話題に上がるので、そういった作品を読みたい人は『ダーク・ファンタジー』というジャンルを掘ってみると面白い発見があるハズだ。
ベルセルク :電子書籍のソク読み・無料試し読み
巨大な剣を背負い、鉄の義手をつけた剣士・ガッツ。彼の行くところ、血の雨が降り、死体の山が築かれる…! 大ヒット!! 圧倒的迫力の叙事詩!!
ゴブリンスレイヤー :電子書籍のソク読み・無料試し読み
【俺は世界を救わない。ゴブリンを殺すだけだ。WEB発の大人気ダークファンタジーを衝撃コミカライズ!!】冒険者になったばかりの女神官は、初めての冒険で、弱小モンスター・ゴブリンの思わぬ脅威にさらされる。そこに現れたのは、「ゴブリンスレイヤー」と呼ばれる、粗末な鎧を身にまとった男だった。男は、無慈悲なまでに淡々とゴブリンを...
特に、シリアスな展開だけでなく一見コミカルに描いた『Helck』や『ダンジョン飯』なども、背景などは抗いがたい不条理な出来事に向き合う、『ダーク・ファンタジー』な側面も見られて面白い。
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「人間滅ぼそう」と勇者は言った。1人の勇者の手によって魔王が倒されて3か月。
ダンジョン飯 :電子書籍のソク読み・無料試し読み
九井諒子、初の長編連載。待望の電子化! ダンジョンの奥深くでドラゴンに襲われ、金と食料を失ってしまった冒険者・ライオス一行。再びダンジョンに挑もうにも、このまま行けば、途中で飢え死にしてしまう……。そこでライオスは決意する「そうだ、モンスターを食べよう!」スライム、バジリスク、ミミック、そしてドラゴン!! 襲い来る凶暴...
ゲームなどでは『ダーク・ファンタジー』というジャンルのおかげで、高い難易度のアクションを要求するものや、重厚な世界観を演出するためのストーリーにも反映されたりと、小説や漫画以外にも 昨今の日本における『ダーク・ファンタジー』は、作品のレベルデザインの部分でも影響を少なからず与えていると感じている。 ある種、前回テーマとした日本におけるファンタジーのあたりまえ同様、このようなサブジャンルにおいても特殊な進化をしているのではないだろうか。
こうやって少しずつまとめていくと、時代が進むごとに…様々な表現や解釈の見直しなどを経て、歴史の長いジャンルも少しずつ変化している事に気が付くだろう。 ここまで書いた文章はあくまでも筆者の主観的な感想や考察ではあるが、ファンタジー作品を楽しむためのヒントとなると幸いだ。 今では漫画だけでも数々のファンタジー作品が存在しているが、その山のように積みあがった書の中から、あなただけの"幻想世界"(ファンタジー)を見つけてみてはいかがだろうか。 次回があれば、特におすすめのファンタジー作品を紹介していきたいと思う。
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