お嬢様と不良。相手を決めつけずに、知ろうとすることの大事を教えてくれるピュアな青春ストーリー『薫る花は凛と咲く』!

不良(ヤンキー)漫画と思いきや……?
 講談社が誇る『少年マガジン』といえば!
 時代を反映した社会性のあるストーリーが掲載されたり、原作者とタッグを組んだ、アングラ文化や政治、本格ミステリー漫画も読め、巻頭グラビアにも力を入れていたり……と。
 数多くの漫画雑誌が存在する中でも、少年の中の「オトナ心」をわしっと掴む少年誌といえるのではないでしょうか。
  
 そんなマガジン誌の歴史を振り返ると、ヒットを飛ばしてきた人気ジャンルの一つに「ヤンキー漫画」があります。
 いわゆる成績・素行の不良学生、でも――普通の少年と変わらぬ、心ある彼等のケンカを越えて芽生える友情や、燃える激情、今この瞬間だけのかえがえのない青春を描くストーリーに、いつだって読者たちは心を揺さぶられてきたのです。
  
 そして、今マガジンポケットで連載中で話題となっているのが『薫る花は凛と咲く』。
 主役は成績不良男子が集まる千鳥高校に通うこちら金髪+ピアスの(つむぎ) (りん)太郎(たろう)くん! 高身長と生まれ持っての強面が彼の武器!
※主人公です。ヒュウ! 流血だよお兄さん、なんてコワイ顔!
 そんな凛太郎くんが、友人らと共に学園のワルのてっぺんへとのし上がる、
最高のヤンキーサクセスストーリーが! 始まり…… 
ません!
 そう、見た目で決めつけちゃ勿体ないことこのうえなし!
 『薫る花は凛と咲く』は成績は不良ではあるけれど純粋で真面目な彼が出合い、変わっていく真っ直ぐな“想い”のストーリーなのです。
 次のメディア化も? とウワサされる熱くてピュアな青春の1ページを少しだけ捲ってみましょう!

隣り合う二つの学び舎

成績不良男子高校 千鳥
 『薫る花は凛と咲く』の物語の中心となるのは、隣り合う二つの学び舎です。
 一つは真新しい西洋風の校舎が美しい「私立桔梗学園」、お嬢様が通う由緒正しき名門校。そしてその隣に並ぶ古びれた校舎が都立千鳥高等学校――、主人公である紬 凛太郎が籍を置く作中いわく「バカが集まる底辺校」だとか……。
高偏差値お嬢様私立校 桔梗
 特に何をしたわけではありませんが、物理的に近く、日頃意識してしまうこともストレスなのでしょう。桔梗校のお嬢様学生ときたら、ハチャメチャに千鳥校の成績不良生徒を嫌っており――、落としたハンカチを親切で拾ってあげてもご覧の通り!
およそお嬢様らしからぬシビアなお顔に、心が折れる!
 隣り合っていても2つの校舎の間には深い隔たりがあるようです。特に千鳥を毛嫌いする桔梗学園の教室では常にカーテンを閉めているため、窓側に座る凛太郎の席から桔梗校の教室内の様子が見えたことは一度も無いとのこと。
 徹底している! 

凛太郎の家

家に帰れば、ギャップ!
 桔梗校からの風当たりが厳しいように、都立千鳥高等学校に通い、高身長で金髪にピアスの凛太郎は悪目立ちしてしまい、何かと因縁を付けられ他校の不良生徒にからまれることも……。
でも大丈夫、持ち前のご尊顔で撃退! 今度は顔面が黒塗りだよお兄さん! ※主人公です。
 そんな強面の彼ですが、家の仕事の手伝いにも素直に応じる真面目っぷり。そう、見た目こそイカついものの凛太郎は物静かな性格なのです。
 そんな彼の自宅家業は、ヤンキー漫画なら自動車やバイクのカスタム+ディーラーのイメージですが――どっこいケーキ屋さんでした!
ギャップ!
 凛太郎自身も、自分が周りからもたれるイメージと乖離がある自覚はあるようで、実家がケーキ屋であり、たまにその手伝いをしていることは友人らにもなんとなく言えていません。
 そんなある日、夕方の店番を頼まれ応じていると店内でケーキを食べていたのは……
 ――口いっぱいに甘味を頬張る、リス?

薫子との出合い

ケーキを頬張る彼女の名前は和栗さん
 凛太郎が店番中、店内でケーキを頬張っていたのは和栗(わぐり) 薫子(かおるこ)でした。
あら、可愛い!
 彼の3分の2ほどの小さな体で丸みのある童顔、けれどテーブルの上にいくつもケーキ皿を並べてしまうような気持ちの良い食べっぷりの女の子。
 初めの出合いこそ驚かれてしまいましたが、知り合いになった二人は店で顔を合わすと少しずつ会話を交わすようになっていきます。
 でも、初対面のつもりの凛太郎と違い、薫子はどうやら以前より凛太郎のことを知っているようなのです。
  
 さらには「凛太郎のことを知れるのが嬉しい」とのこと! あれま! それって……もしかして――と、ソワソワする読み手の心はさておき凛太郎の心は――。
わかんねーーっ
  
 二人の様子をそっと見守っていた店のパティシエであり、実の母にまで内心「鈍すぎるだろ!」と、突っ込まれてしまう凛太郎。
 わかりやすい薫子の好意にも戸惑うばかり。ですが、その根底には「今まで誰からも怖がられてきた自分がなんで?」という見た目により誤解を受け続けていた彼の“実際”がありました。
 けれど薫子は凛太郎にこう告げます。
 そしてケーキ屋の帰り道で、彼を悪しざまにいう他校の不良生徒に絡まれたときですら「噂だけで人を決めつけて、知ろうともしないのに好き勝手いうのはやめていただけますか」と、震えながら訴えます。
 もちろんこんなことを言ってしまい薫子ちゃんはピンチになってしまうのですが……! その顛末は是非本編で!
  
 薫子からの真っ直ぐな想いに戸惑いつつも、凛太郎自身も彼女のことを知りたいと思い、また少し距離が縮まった二人。
 けれど翌朝凛太郎が、教室でなんとなく窓を眺めていると隣、桔梗校の開かずのカーテンがわずかに開いており、そこに立っていたのは――桔梗校の制服に身を包んだ薫子だったのです。
薫子ちゃんの制服姿もまた可愛らしいこと。ヒュウ! 面白くなってきやがった!

決めつけずに歩み寄る

ストーリーを手掛けるのは三香見サカ先生
 と、丁寧にあらすじを紹介してしまいましたが……上記までが僅か第1話!
 一種敵対ともいえる学校間でデッカいフラグが立ってしまった二人。今後の展開が気になる読者の心をしっかり掴む本作・作者である三香見サカ先生の手腕には驚かされるばかりです。
 読み切りにて複数の受賞歴を持ち、初の連載となる『薫る花は凛と咲く』でも物語の上手さや、キャラクター作りの丁寧さがキラリと光り――と、今後もますますの成長が予想される勢いのある新鋭。巻を増すごとにますます洗練されていく緻密な線画にも注目してみてください。
  
知ろうとする眼差し
 偏見を持たずに自分を見てくれた薫子の存在を嬉しく感じていたけれど、彼女が桔梗学園の生徒と知り、距離を置こうとする凛太郎。
 店に来てくれた彼女に「俺と関わっても和栗さん(薫子)にいいことがあるとは思えない」とこぼし、彼女を傷つけてしまい――素直な性格故に落ち込みます。
 そんな彼の額に優しく手を差し伸べるのはパティシエである凛太郎の母。
「見かけだけで決めつけられることを 昔は散々自分で嫌がってたのに 今は自分の方が桔梗桔梗って…そればっかり 凛太郎は和栗さんの何を見てるの?」
 母の言葉に、見かけだけで決めつけていたのは自分の方だと気付く凛太郎は、店を去ってしまった薫子を追いかけるのです。
  
 『薫る花は凛と咲く』では、薫子の相手を知ろうとする眼差しをきっかけに主人公である凛太郎たちの成長が描かれます。
 そして漫画の画面上では薫子を始め、物語を読む読者に真っ直ぐに向けられるキャラクターたちの正面を向いた眼差しが印象的に写りました。
青春を送る生徒たちを見守る大人の眼差しもまたイイ本作。個人的に好きなのは千鳥校の大らか担任塚っちゃんの眼差しです。
 知ろうとする眼差し、信頼の眼差し、何かを訴えかける眼差し。真摯に向き合おうとする真剣さが眩しく、そんな作品を読む内に「一方的に決めつけて、立ち止まっていること」が意外にも多くあるなと。気付かされます。
  
 お嬢さま高と成績不良校、でもそのレッテルで決めつけず、相手をもっと知りたいと歩み寄る。
  
 強い風にそよいでも背筋をしゃんとさせて立つような、格好いい凛太郎と、彼を変えていく存在となる薫子。
 真っ直ぐに向き合う二人の想いがどんな風に育っていくのかこの先の展開が楽しみです。

薫る花は凛と咲く
著:三香見サカ

とある場所に、隣接するふたつの高校がある。バカが集まる底辺男子校・千鳥高校と、由緒正しきお嬢様校・桔梗女子。強面で物静かな千鳥高校2年・紬 凛太郎は、実家のケーキ屋の手伝い中にお客として来ていた少女・和栗薫子と出会う。薫子との時間を心地よく感じる凛太郎だったが、彼女は徹底して千鳥を嫌う桔梗女子の生徒で……!? 

(C)Saka Mikami/講談社