ヤバいやつら大集合の逆ハーレム!?眉目秀麗な婚約者に地獄までは連れ添っても『来世は他人がいい』

逆ハーレム展開!
 それは後宮の男女逆転パターンともいうべく、多くはストーリーにおいて一人のヒロインに複数の男性が思いを寄せる関係性を指します。正直、好き。夢やロマンが滾る、特に少女漫画では王道ともいえる状況です。
  
 本作『来世は他人がいい』の主人公である17歳の染井吉乃(そめいよしの)には…
東京には常に笑顔を絶やさない眉目秀麗な婚約者、深山みやま霧島きりしまがいて。
一方、郷里大阪の気のおけない幼馴染、(とり)(あし)(しょう)()には「一生一緒に暮らしても まぁまぁ楽しいんちゃいます」と言われ。
更にはミステリアスな周防(すおう)(あざみ)に「僕と結婚しよう」と言い寄られてしまう!
あらあらまぁまぁ! モテ期ですこと! しかし、彼女を取り囲む彼ら全員――
もれなく、やくざ者のロクデナシである。
  
 「私の周りの男、クズばっかりや!」
 主人公吉乃ちゃんも思わず頭を抱えたくなるような、マゾヒスト破滅願望持ちクズサイコパスと、修羅達に好かれてしまう…ヤバいやつらが大集合!
 しかも、この作品、面白さはその程度で終わりません。スパイシーな刺激に富み、ハードでありながらポップで爽快。TVアニメ化も決定し、読者を惹きつけてやまない――けれど、あくまで“他人”の距離から見つめたい。
 そんな本作の抗いがたい魅力に迫ります! 

✔婚約者はロクデナシ

染井吉乃は染井組組長・染井蓮二の孫娘 
 この物語では、関西最大の指定暴力団(ワオ!)桐ヶ谷組直系の染井組組長・染井蓮二の孫娘である染井吉乃の婚約の話に始まります。
 お相手は同じく関東最大の指定暴力団(ワオワオ!)砥草会直系深山一家総長・深山萼のご令…!
 つまり、関西・関東の2大ばいおれんす勢力が盃を結ぶに当たり、その絆を深めるべくの――婚約。協定のためとはいえ勝手に結婚相手が決まってしまうなんて中々ヘビーです。
 しかし、実際に吉乃が婚約者を訪ね東京に赴いてみると。相手の深山霧島は眉目秀麗!しかも、人当たりのいいやさしい雰囲気の好青年でした。常に穏やかな微笑を浮かべ、物腰は柔らかく紳士的。それでいて「会いに来てくくれただけで嬉しい」と、気が乗ったら東京に来てくれればいいと、無理強いはしない満点対応。
 その印象の良さに吉乃は縁談を受け、東京へ単身越してくることになるのですが……。
  
霧島の笑顔のメッキは剥がれ、変貌。 
 ふとしたきっかけで、本性を現した霧島は、吉乃に向かって「吉乃が普通すぎてちょっと飽きちゃったんだよね」と告げます(え!)。さらに今の吉乃は俺にとって何の価値もない女だから、それなら“儲け”になってくれる女になってよと体を売ってこいと挑発(!!)。
  
 さらにはこの提案に腹が立ったら、そのまま実家に帰って泣きついてもよいと。それが火種になり、関東、関西2大勢力の抗争にでもなれば最高だ。俺の人生終わるかも。とも言います(!!!)。
  
俺の人生をメチャクチャにしてほしい
 そう、一見好青年だった霧島は、ハンサムでも補えないほどの破滅願望マシマシのドエム特盛ブレーキ無しの爆走重機関車なマッド狂人・プッツンやろうだったのです!!!
 な、なんだってー! 

✔周りの輩もヒトデナシ

1年かけて死ぬほど自分に惚れさせたれ 
 婚約者の変貌と、暴言。しかもホーム大阪と勝手の違う東京ではハプニングに巻き込まれてばかり。しっかりしてはいるものの17歳の吉乃はまだ未成年の女の子です。うまくいかない状況に大阪に帰りたいとこぼしてしまう…そんな時、祖父、蓮二から電話が掛かってきます。
 蓮二のアドバイスは――死ぬほど惚れさせて、容赦なく捨てて帰ってこい! という「1年ガンバロ!」な内容。これには吉乃も!
  予想もつかないストーリーも魅力的でありながら、なんといっても個性立ちすぎのキャラクターたちの関係性の面白さは抜群。何しろ吉乃の婚約者深山霧島を始めロクでもないやつらが出てくるというのに……どなたも見目麗しく、セクシーで危うい魅力に満ちています。 
きやあああああおっとこまえーーー!

✔実は、一番ヤバいのは…

ヒロイン、切れる。キレた結果、愛される。 
 頼りになるホーム大阪は遠く、婚約者はロクデナシ……、正に冒頭から心の折れそうな展開ですが、『来世は他人がいい』の登場人物はどなたも極まっているわけで――、流れているのです。関西最大の暴力団の染井組組長の血が、孫娘である吉乃にも。
 なので、体を売ってこいという婚約者霧島の挑発に吉乃が出した答えは。
  
いつもの教室、いつもの休み時間、学業机に札束
「売って来たわ、腎臓一つ、400万」
 そう言って吉乃は霧島の机に紙袋に入った札束を放ります。
 婚約者の話が起こり、祖父のアドバイスを受けた時点で彼女、吉乃の覚悟はもう決まっていました。17年という短い年月ながら、ヤクザの孫娘として生きてきた彼女は、「自分はこの先どう真面目に生きようが、ロクでもない死に方をする」と。言います。それは一種の諦観。しかし、だからこそナメた真似をするやつは――、 
 女子高生とは思えないほどの極道啖呵を吉乃に切られ、さすがの霧島も慄く……と思いきや、その様子に思わず目を輝かせ、
「好きだ、絶対結婚しよう」
とこぼします、えっ!
  
今まで生きてきて一番、最高にゾクゾクした
 そう、霧島は破滅願望の強い、ドエム(!?)。自分の人生をめちゃくちゃにしてくれるような女が大好きな彼は、吉乃に他の女には無い力強さと狂気を感じ、やっぱり俺の相手はこの人しかいない!
と、恋を知ったばかりの乙女のように胸をときめかせるのです。
 な、なんだってー! 

✔地獄までは連れ添っても

話が進むにつれ、深まっていくもの 
 『来世は他人がいい』では、二人の生い立ちと立場上、次々と訪れるピンチに対して、恐怖が麻痺した霧島が行動し、吉乃がキレる。結果、一方的に好かれる。という保湿化粧品を重ね付ける冬のスキンケアみたいな事態が起こっていきます。
 ハプニングにより高まっていく(一方通行の)愛……?
一種王道ともいえるストーリー展開なのですが、ともかくキャラクター各人が破天荒で面白く、次の一手が全く予想できないのです。
  
なんだかんだでお似合い?
 また最初は好みの女だからグッときたのが動機という霧島も、エピソード重ねるうちに彼の心情やその背景が明らかになり、吉乃との間には不思議な絆も育まれていきます。
 読み進める内に、互いにとって、他に合う人はいないのでは? と感じる方も多いのではないでしょうか。
  
 果たして、とんでもない二人の行きつく先は? 少なくとも猛獣のような霧島や吉乃を“他人”として読める私たちは、しあわせなのかもしれません。 

▼ 作品情報 ▼

来世は他人がいい

著:小西明日翔


(C)小西明日翔/講談社