理性と感性の間に揺れる30代の大人の恋。二人のヒロインにとっての『理想のオトコ』は、果たして誰?

――最後に誰かを好きになったのはいつだろう?

 もし、あなたが今しばらく「恋愛をおやすみ」しているのなら。
 一旦、時を巻き戻し、例えば5歳、私たちがまだオラウータンだった頃を思い出してください。

 あの子の見た目が好き、自分に優しい。面白い、笑顔が可愛い、足が速くて格好いい。
 かつては誰かを好きになる、恋をする理由はもっと単純で簡単だったはず。

 けれども年を重ね、ヒトに進化した私たちの「好き」は複雑になっていきます。
 結婚を見据えるとさらに一筋縄ではいかず、相性に限らず、相手の家柄やステータスも含めて、理屈や計算で考えることも。
 誰もが胸に理想の相手を抱きながら、現実とのギャップに苦しみ、年齢と共に理想の基準も上がり、恋をするのはますます難しくなっていく――、

大人の恋って大変!

 テレビ東京よりドラマ放送も始まり、恋のダンジョンに迷える登場人物たちのリアルな葛藤に共感の声が集まる本作『理想のオトコ』。
 30代の異なる立場のヒロインたちも大人の恋の難しさにそれぞれ翻弄されていくのです。
 最初に一言よろしいですか?この作品は……、
恋愛トーナメントにおけるシード選手しか出てこないっ!

 これは、どう転んでもモテる、モテモテ貴族たちの頂上決戦が今、始まろうとしている……。
 冒頭からそんな予感がしていたのです。

 まずは、赤コーナー、美人な腕利き美容師トーコこと小松燈子。器量良し、気風良しと、独身ゆえに常連さんからしょっちゅうお見合い相手を勧められる32歳のお年頃。
美容師ゆえに人当たりも良く、初対面の男性とも仲良くなれるのがトーコちゃんの良さである。
 続いて青コーナー。トーコと同い年であり、既婚者でチャキチャキ仕事もこなす漫画編集者:安積茉莉沙あずみまりさ
 独身時代は「さみしさゆえに男が切れなかった」と語る彼女(ヒューッ!)。今は、家庭も仕事も不足なくこなしながら、職場では女らしさを忘れない色香漂う完璧ウーマンです。
 仕事に集中したいから、結婚しているから、恋は面倒だから――、とそれぞれの理由で恋愛からしばらく遠ざかっていた二人のヒロインなのですが、こんな魅力的な女性たちを世間が放っておくはずもなく。

「どうしようトーコ、私ヤッちゃったかも……。」
 酔った勢いで朝起きたら下着姿で――、突然親友の茉莉沙からのエマージェンシーコール!
 しかし、そんな茉莉沙の電話に驚くトーコも同じく半裸状態で、隣には裸の男性が眠っていて……?!
 と、物語序盤から、一夜限りの男女の関ヶ原がラッシュで開戦してしまいます!
恋愛からしばらく遠ざかっていても、常に爪を研ぎ、いつでも裸になれる。それが一流のボクサーってやつだろう?と、天からの声が聞こえてくるようです。勉強になりますね!

✔年上・年下・同い年。タイプの違う3人の男性

 短い休みは終わりだ。さぁ恋しろ。と、いわんばかりの怒涛の展開。トーコと茉莉沙。彼女たちに猛攻をしかける挑戦者たちもなかなかの顔ぶれです。

 下着姿のトーコの隣で眠っていたのは、人気作家として受賞歴を持つ漫画家のミツヤス先生
 トーコより10歳年上であり、好きな漫画制作にのめりこむあまり、自身の見た目には無頓着。 
 最初は脱毛サロンのWEB広告のように、ヒゲ・髪と毛量豊かなミツヤスですが、受賞式に合わせてトーコがスタイリングすれば、この通り、あらまイイ男!
そして人気作家だからこそ年収は億単位……!経済力があり、まっすぐで一途な年上男性なのです。
 続いて、未遂ながらも茉莉沙の横ですやすや眠っていたのは売れっ子天才デザイナーの高野くん。茉莉沙より10歳年下のベビーフェイスでありながら、ときに冷静なアドバイスで彼女を支え、頼りになるというとんでもない漢である。
既婚者で仕事仲間である茉莉沙を、「一人の女性として見ています」と言い切る覚悟、君本当に22歳の若造か?
 10歳年上、10歳年下。タイプの違うそれぞれの男性との急接近(物理)に戸惑うトーコと茉莉沙。
 さらに、ミツヤスの授賞式では、トーコは同い年の元同級生であり優秀な編集者の志摩とも再会。
 そして、人生に三度は訪れるというモテ期が始まったことにより、彼に告白までされてしまい、恋の迷路はますます複雑になっていきます!
若手で優秀な編集者の志摩はトーコと同い年。かつてを知っているからこそ、この再会に意味を感じたというのです。さぁ、どうするトーコ!?
 もちろん、既婚者である茉莉沙:妻の変化には、同い年である夫:安積正樹も黙っていられません。このやたらハンサムなメガネ男子も職場の小悪魔女性からアプローチをされていて……?
まさに選ばれしものたちの頂上決戦が開幕。
この勝負一体どうなるのでしょう!

✔理性と感性の間に揺れる、大人の恋に出口はあるのか

30代女性の恋愛に、失敗は許されない?
 本能的にミツヤスの魅力に惹かれていくトーコ。けれども、天然でつかみどころのない彼に、この人と一緒になって大丈夫なのかな?と、同時に不安を感じます。
 そんなときに天秤にかけてしまうのは、安心できる存在の志摩。いけないとはわかっているけれど、二人の男性の間で心は揺れてしまうのです。

「この歳になると好きだけじゃダメってわかるじゃない?子供を産むなら時間の余裕もないんだから」
 読んでいて魅力を感じるのは、キャッチ―なコピーではない、生々しいリアルな台詞の応酬。
 女性マンガアプリ「Palcy」で連載配信された当作品ですが、各世代の気持ちを代弁するようなリアルな感情描写に共感が集まり、300万以上のPV数を達成しました。
 集中連載ならではの大変さを作者である、チカ先生はあとがき漫画で語っていますが(このあとがき漫画の絵がとっても可愛らしい!)、次々と起こる予想外のストーリー展開には、それ故の閃きが活かされていることを感じます。

 特に感情のぶつかり合う場面は迫力もひと際で、読んでいて、胸が詰まる、身につまされる瞬間も。
 人生の変化が訪れる30代の過渡期。そこでそれぞれがどんな決断をしていくのか気になるものです。

理想の相手は誰?どんな人となら私は幸せになれる――?
 10歳年上、10歳年下。同じ年の男。仕事仲間、夫、同級生、一夜の相手。
 仕事のこと、将来のこと、自分の年齢を視野に、様々な男性たちと接し、迷いながらも進んでいく二人のヒロイン。 打算か、本能か、信じるものの間に揺れて、悩みながらも答えを出していく彼女たちの姿は、作品を通して読者に勇気を与えてくれます。

 果たしてトーコと茉莉沙は大人の恋の迷宮から無事脱出できるのでしょうか?
 それは本編を読んでのお楽しみです!

▼ 作品情報 ▼

理想のオトコ

著者:チカ


(C)チカ/ 講談社