目指すは、その人らしさを祝福するようなメイクアップアーティスト。夢に向かって歩み出す青春群像劇『ブレス』!

化粧って世界で一番軽い鎧だ
 “パーソナルカラー”という言葉が日本に入ってきたのは1980年代といわれています。以来、一人の魅力を高めてくれる「自分に似合う色」はファッションの多彩なシーンに取り入れられ、時代によってはその考えが一つの流行となり幅広い層に広まっていきました。 
 髪や瞳の色、肌の質感、体型や輪郭によって自分を引き立ててくれる色はそれぞれ違います。だからこそ、顔色までトーンアップしてくれるような、特別なリップカラーに出合えたときのよろこびはひとしお。さらにはアイシャドウの彩りや、笑顔の印象を深めてくれるチーク、彩るだけで変わっていく自分を楽しめるのはメイクの醍醐味ともいえるでしょう。
 化粧をすることはいつも、キレイになりたい心を勇気づける強力な武器なのです。 
顔を上げて
 化粧けわうことの歴史は長く、今は年代や性別を問わずメイクを楽しむ時代。キレイになりたいと思うことは自然な感情であり、それは自分に自信を持ちたいということなのかもしれません。
 けれどもっとこんな自分になりたいと思いながら、自信を失い、ついうつむいてしまうことだってあります。
 そんな一人に向かって、本作主人公である宇田川アイアは「顔を上げて」と呼びかけます。
 『ブレス』はメイクアップアーティストを夢見る青年アイアを中心とした青春群像劇であり、そして彼のメイクに触れて変化していくそれぞれが自信を取り戻していく様子が描かれます。
 読めば顔を上げて歩きたくなるような、元気いっぱいの物語。その魅力を紹介します。 

顔を上げる明るいベース

学園祭のイベントに選ばれたモデル役は?
 容姿端麗で、日本人離れしたスラリとした印象の宇田川アイアは、中学時代にはモデルとして活躍していた実績の持ち主。
 ストーリーは主人公である、アイアが学園祭のメインイベント「葵祭アーティストコンテスト」のモデルに抜擢されたことから始まります
パートナーは顔を隠した猫背の少女
 「葵祭アーティストコンテスト」は、芸能・美容志望が多い学園のビッグイベント! 学外からも取材がある注目の催しなのですが――、メインは2年・3年の先輩たち。
 「前座」となる新一年生では、立候補する生徒はおらず……、選ばれたのはモデル経験のあるアイアと押し付けやすい実行委員の女子生徒。
 迷惑そうな様子も隠さず「僕たち押し付けられちゃったね」と、アイアは笑って、そして聞きます。
 「ねぇ、なんでいつも顔隠してるの?」 
本当はモデルよりもメイクが好き
 猫背のクラスメイトであり、実行委員の炭崎純は、そばかすが印象的な女の子でした。
 そこで「そばかすが気になるなら消してあげようか?」 と自前のメイク道具を拡げ、その腕を披露するアイア。
 そう、実はアイアはメイクが好きでメイクアップ―アーティストの夢を抱いたこともあったのです。

チャームポイントを演出する

モデル役とスタイリスト役を逆に?
 いつも研究ノートを熱心に取るほどメイクが好きなアイアでしたが、周りに期待されたのはモデルとしての自分でした。
 一方、クラスの女子と目を合わせるためにいつも屈んでいた炭崎も、姿勢を正せばスラリとした高身長! そのスタイルの良さで、彼女もモデルを夢見ていたのです。だけど……。
 葵祭にむけて、話し合う内に互いの境遇に、自分と同じものを感じて心が揺さぶられる二人。
 それならいっそ、「モデル役とスタイリスト役を逆にしてみない?」と炭崎は大胆なアイディアを思いつきます。
そばかすは彼女のチャームポイント
 モデルからスタイリスト役として、チェンジしたアイアが提案したのは、炭崎の特徴であるそばかすを隠さない、美しく魅せるメイク。
 そばかす、というと美醜においては欠点になりそうなものですが、炭崎は自分を「ひまわりみたいな子ねって言われて育ったの」と言います。 
 周りがどう思っても、彼女にとってそばかすは大事なもの。ならその「彼女らしさ」を引き立てたいと、アイアはメイクアップブラシを握ります。

凛としたアイメイクで心も強く

メイクは心も強くしてくれる
 炭崎が、高身長や、自分の容姿を気にするように性別に限らず誰にだってコンプレックスの一つや二つはあるものです。
 だからこそ、メイクが味方をしてくれる。と同作は力強く読者に語り掛けてくれます。 
 そしてコンプレックスだから隠してしまおうと決めつけるのではなく、それもきっと「その人らしさ」であり、魅力になると背中を押してくれるような温かさを感じるのです。
  
メイクは新しい自分に出合わせてくれる 
 モデルから一転した青年アイアが、メイクアップアーティストを目指す『ブレス』では、メイクによってさまざまな「誰か」が変身する物語でもあります。
 印象的だったのは本格的にメイクの勉強を始めたアイアが講師に言われる台詞。
 「メイクのための一歩は洗顔でも、保湿でもなく『対話』だよ」
 メイクアップアーティストは相手を深く知り、その人の魅力を引き出す仕事でもあるのです。アイアの手によって変わっていく、いつもとちょっと違う自分、胸に秘めている秘密の私。
 そんなモデルたちの美しい羽化の様子も目が離せません。 
華がないと言われ続けたモデルの北山さん。そこで所属する雑誌のスタイル「可愛い」系統は止めて、クールな印象に変えると……?
 そして、そんな一人ひとりの様子が素敵なあまり、明日のメイク、変えてみようかな…なーんて思ったり、するかも? 

“誰か”を祝福するようなメイク

メイクは自分を大胆にもしてくれる?
 話は戻り、葵祭アーティストコンテストの当日。例年通り華やかな先輩たちの活躍に負けじと、スタイリストアイア、モデルの炭崎は鮮烈なデビューを果たします。(その様子は是非本編で!)
 そして、注目を集めた二人は、モデル、そしてメイクアップアーティストの道へ向かって歩み始めます。 

祝福するようなメイクがしたい
 モデルのオーディションを受け始めた炭崎の後を追う様に、メイクアップアーティストとしての依頼を受け、メイクの専門学校ともいえる機関、「MIRRORミラー」へ足を踏み入れたりと進展に次ぐ進展! 
 そこで個性豊かなメイクアップアーティスト、モデルたち、夢に向かってさまざまな思いを抱く一人ひとりに出合い、アイアは更に成長していきます。

 そして、あるとき第一線を駆け抜ける先輩プロアーティストに「どんなメイクアップアーティストになるのが夢だ」と問われ、アイアはこう答えます。 
 もっときれいになりたいときも、笑顔に自信がないときにも、メイクはきっと味方になってくれる。
 そして自分だけがもつ「自分らしさ」を祝福することは、その人だけの美しさや強さをきっと引き出してくれるはず。
  
 アイアが、炭崎が、夢を目指して進む姿が最高に元気をくれる、胸を張って歩きたくなるような素敵な作品です。