※当コラムはあくまで執筆者の私見と個人的な感想です。
ピアノ教室に通う金田一咲希と耳が不自由な及川奏音、2人の少女の物語。
高校入学直前、咲希はピアノ教室からの帰りにつまづいてしまう。
そこで通りかかったのはボーイッシュな格好をしているが、ロングヘアで美しい容姿の少女だった。
その後、入学した学校でなんと同級生なうえ同じクラスに!
手を差し伸べてもらったときから気になっていた咲希は、奏音の耳が不自由な事に気が付く。
耳が不自由というだけで特別扱いされるのが鬱陶しく感じる奏音は、担任の先生からの提案やフォローもはねのけてしまう。
そんな奏音に咲希は、自然にただ仲良くなりたいと少しずつ距離を縮めていく―――
この物語は、恋愛でもあり、「目に見えないなにか」を様々な登場人物の目を借りて覗いているようなヒューマンドラマでもあると感じた。
その「なにか」は…時に「普通」で、時に「特別」で、「自分」にもあてはまるようなもの。
人の感情が織りなすドラマ、そのロマンスと「なにか」に追及するようなストーリー展開となっている。
気持ちのすれ違いや、言葉の解釈、秘めたる恋心、いずれも「見えないなにか」であり、人間関係における問題提起の要因となるものだ。
それらを少しずつ紐解き、答えを出していく様子は、より2人の関係を尊いというカタルシスへ昇華させていっているようだ。
咲希と奏音の抱える問題は少しずつ変化をしていく。
払拭したい過去、幸せになりたい未来、そのために現在の私たち誰もが抱える不安や感情は目に見えないものだ。
「普通」の範疇でしか実感できない事をあたりまえのように感じているが、時として人を傷つけているかもしれない。その「普通」というレンズを通して見る世界は時として狭く見えるかもしれない。と、いまいちど考えるべきだと感じさせてくれる作品だ。
雨夜の月
著:くずしろ
(C)くずしろ/講談社