【ファンタジー漫画の歩き方を考える①】勇者と魔王の対立構図について

 最近のアニメ化で話題となった『葬送のフリーレン』『ダンジョン飯』。
 ファンタジー作品の人気が以前に比べて目立つようになった。
 もちろん、少し前から『異世界転生』というジャンルにおいてファンタジー作品が注目されることとなったが、
 上述の作品はいわゆるハイファンタジーやダークファンタジーとされる部類のジャンルとなる。

 そんな中、目についたコメントがある。
 勇者や魔王・魔物の概念、日本製ファンタジーにおけるお決まりは、現世代においてはお馴染みでない可能性―――
 というものだ。

 なるほど、たしかに海外製のファンタジーと日本製のファンタジー作品における前提的なお決まりの設定や世界観は少し異なる。
 そこで、改めて現在のファンタジー漫画を楽しむためにも、改めて歩き方を考えてみたいと思う。
 ということで今回は、ファンタジーと言われて思い浮かぶ『勇者と魔王の対立構図』について考えてみたい。
※当コラムには筆者の個人的感想と考察が含まれていますのであしからず。(2024年6月時点)

①勇者と魔王の対立構図

 そもそも、ファンタジーと聞いて思い浮かぶ『勇者と魔王の戦い』というテンプレートな概念はどこからやってきたのか。
 日本のファンタジー作品の中で語られる勇者といえば、『勇気ある者』『選ばれし特別な者』の意味が強く、世界を脅かす悪に立ち向かう人間にとっての正義の存在と考えられる。
 それに比べて魔王という考えは独特で、『世界を脅かす者』『狂暴な魔物を使役し侵略する者』といった前提が多く悪の親玉といった立ち位置だ。

 つまり、勇者と魔王の対立構図というものは、ヒーロー作品の構図と同じく、正義と悪がそれぞれの信念のもとに対立している構図となっている事が多い。
 この構図が成立するもので影響力が特別大きかったものといえば1988年発売の『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』だと筆者は考えている。
 ゲーム作品ではあるが、国内のファンタジー漫画ではこのドラゴンクエストが前提とした剣と魔法と勇者と魔王の関係で成り立っている物が多いのは確かである。
 『週刊少年ジャンプ』誌上で1989年第45号から1996年第52号までの7年間連載された『DRAGON QUEST -ダイの大冒険-』もドラゴンクエストが原作とされているとおり、この関係をベースとしている。

 最近、話題となった『葬送のフリーレン』ではこの構図を深堀りし、勇者と魔王の戦いの後に残った世界のその先を描いているから面白いのだ。
 個人的な感想だが、つまり定番を逆手にとったメタ的な面白さも内包していると感じた。
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②勇者と魔王の流れはどこから来たのか

 ではその『ドラゴンクエスト』の流れはどこからやってきたのか…。

 1974年に初版が発売された海外書籍、TRPGの始祖でもある『Dungeons & Dragons』や、J・R・R・トールキンによる長編小説『指輪物語』が思い浮かぶ。
 ストーリーが主軸のRPGの原型として有名な1981年の『Ultima』が多く影響を与えたのは言うまでもない。
 ただ、これらの悪の勢力といえば魔術師や魔女などであり、日本でいう「魔王」という設定は独特なものであるとわかる。

 そもそも「魔王」という言葉は仏教用語から来ているものと推測される。
 仏教では正しい教えを害し、知恵やよい性質を失わせる、天魔の王。
 人に災いを与えたり悪の道に誘い込んだりする魔物とされているものだ。

 つまり、悪の勢力の親玉を「魔王」と表現する事ですんなりと理解させやすく、日本のファンタジーで扱いやすい表現でもあるのかもしれない。
 これらを前提に考えると、『選ばれし勇気ある者(勇者)』が『災いをもたらす物(魔王)』と戦う日本のファンタジーの定番は詳しく説明を省くことができ、馴染みやすかったのかもしれないとも考えられる。

③定番構図を逆手にとった作品

 現代に近づくにつれ、定番構図を逆手にとった"逆張り"的な作品も目立つようになった。

 たとえば、2010年12月~2012年12月まで刊行された『まおゆう魔王勇者』だ。
 魔王と戦おうとする勇者に、魔王側から現状の根本的解決のために協力を求めるといった構図になっている。
 お馴染みの構図を意外性をもたせると共に、その先も気になる展開になっている。
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WEBコミックサイト『ファミ通コミッククリア』にて、隔週連載中!魔界と人間界との戦争を、まったく新たな視点で描き話題を呼んだ、異端ファンタジー巨編『まおゆう魔王勇者』のコミカライズ第1巻が遂に登場。新鋭作家・浅見ようが、圧倒的画力でファンタジー世界を、そして世界の改善を目指す魔王と勇者と仲間達を描く!
 また、2014年5月~2017年12月まで連載した『Helck』も、人間のために戦うハズの勇者が『人間が憎い』と魔王側にやってくるところから始まっている。
 全体的にギャグ調であるがゆえシュールにも見える設定だが、これも勇者と魔王側の勢力が協力していく物語となるが、勇者側の苦悩なども描いている作品だ。
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「人間滅ぼそう」と勇者は言った。1人の勇者の手によって魔王が倒されて3か月。
 ただファンタジー作品といえど、昨今では様々な色やムーブメントがあり、特色を増している。
 いまこそファンタジー漫画を読んでみてはいかがだろうか。

 次回は、ファンタジーの"ジャンル"について考えてみたいと思っている。