メディア化が止まらず、絶好調!身近な警察官の生態がわかる?面白いが“ハコヅメ”の極上コメディが開幕

 かつて、私の兄のファッションセンスは絶望的でした。
 まず髪型が辮髪(べんぱつ)。サイドは刈り込みを入れ、つむじから肩まである髪を結ぶスタイルだったのです。
 そして、黒いゴミ袋のようなロング丈のダウンコートを着込み、なのに足元は真冬でも裸足にサンダル。
 身長も180cm近い男性ですから、深夜に街を歩いていると月に2度は「職務質問」をされていたと、(なぜか自慢げに)その体験談を私に話します。

 そのとき印象的だったのが次の内容でした。

 「妹よ、知ってるか?警察官の“職質”って、すっげぇフレンドリーなんだぜ。『こんにちは!今日は寒いですね、この後どこいくんですか?』ってカンジ。一瞬俺の知り合いなのかな?って思ったわ」

 そう。「疑わしくても、罰せず」?彼らはとってもフレンドリーな街のガーディアン。いたずらに火種を生むことはない――、のだとか。

 生活圏内に当たり前にいる警察官、そして目にする交番。でも、接点はあるかといえば、せいぜい落とし物を届けたり、道をたずねたりするくらい。
 暮らしの背景に馴染みながら、交番勤めハコヅメの彼らについて私たちはその「生態」を知りません。
それがまさかこんなに面白いだなんて!
 シリーズ累計売上は350万部を突破!2021年に日本テレビでのドラマ化に次ぎ、2022年にはアニメ化と、メディア化の連続で大注目が集まる同作。
 独特のテンポに引き込まれるうちに、知られざる彼女や彼らのことがよくわかる?
 もしかしたら身近な交番に対する見方も変わっちゃうかもしれません。

 昼夜問わずに「いろいろなものと、たたかい」笑ってはいけないけど笑ってしまう、交番ハコを舞台にしたコメディドラマの開幕です!

正義を胸に?いいえ、主人公:川合 麻依かわい まいの「入社動機」は浅かったのです。
開幕と同時に辞表を握りしめる主人公!
 「安定収入があればなんでもいいよね☆」
 公務員試験を片っ端から受け――、たまたまなってしまった警察官。
 そんな天然素直な主人公:川合麻依かわいまいの交番勤務より物語は始まっちゃいます。

 正義を胸に(?)警察官になってみたものの――、バックスポンサーは縦社会の日本一ヤバい組織?その無茶ぶりに市民と組織の板挟みになるなんてことも……!

 「こんなに激務で嫌われものだって知ってたら、絶対警察官なんてなってない!」
 後悔浸りの彼女の毎日に、さらに嵐がやってきます。
聖母のような美貌の藤 聖子ふじ せいこ。でも、その中身はゴリラ?!
藤さんの暴言はこんなものではございません。惚れ惚れする藤節は是非本編で。
 新人の川合につけられた指導員は、警察学校を首席で卒業した刑事課のエース藤 聖子ふじ せいこ
 「ミスパーフェクト」とあだ名がつくほどの彼女はとにかくタフで格好いい、のですが、口を開けば周りが引くほどの毒舌。

 しかも、後輩刑事へのパワハラにより交番勤務へ飛ばされたといううわさが囁かれていて……?
 ですが、怖い中にも「ペアっ子」である川合に警察官としての道を示す、厳しくもやさしい先輩でもあるのです。

✔交番勤め(ハコヅメ)の苦労に泣き笑い

警察官の皆さま、いつもお疲れ様です……。
 『ハコヅメ』の魅力はそんな川合・藤の凹凸ペアを中心に紡がれる交番勤務の様子がひたすらに面白いこと!
 キャラクターの生き生きとした様子はもちろんですが、私たちの生活背景に溶け込む、警察官の意外な苦労や、その職務内容が垣間見えてくるのもまた魅力なのです。
 読んで意外だったのは、交番勤務の警察官の仕事の中心は「防犯」であるということ。ですから、派手な事件は起こりません。

 イベントの見守りや、人流の整理。交通規制や夜間の見回りなどなど、一見地味ですが、大切な役割です。
 けれど、指導対象の中高生には「マッポ」と理不尽に野次を飛ばされ、駐禁を取り締まればドライバーには文句を言われる。
 一方でたまたまスピード違反をしてしまった程度の、善良なおばあさんの免許切符を切ることで良心が痛むことも……。
県警勤務の経験が生み出すリアル
 作者の泰 三子やす みこ先生はなんと、県警に10年務められたのち、『交番女子』の読み切りが話題となりデビューした作家です。
 警察のことをもっと知ってほしいというのが、作品を描いた動機。と、語るようにリアルな描写はもちろん、「身近でいて知らないこと知る」楽しさが同作から感じられます。

 そんな彼らの泣き笑いと、厳しい組織故の「警察」の在り方がなんだか面白く。笑っちゃいけないのに笑ってしまうのです。

✔個性溢れる「彼女・彼ら」の魅力

 基本的には平和(?)な交番勤務――、それをこんなにも面白く見せてくれるのが、個性が溢れすぎている「警察官の彼女・彼ら」の魅力です。

 取り調べの天才:源 誠二みなもと せいじ
 フワフワパーマが特徴の源刑事は町山警察署の巡査部長。
 警察学校では成績ワーストワンだったにも関わらず、優れた身体能力と、人あたりにの良さで取り調べの天才と称される、頼れるお人です。
ゴリラと呼びつける藤警部とは同期なようで、この二人のやりとりにニヤニヤ……。
「そんなんだからお前はいつまでたっても山田なんだよ」
頑張っているけど空回りな刑事課捜査一係の巡査長:山田 武志やまだ たけし

 藤・源の1期下の後輩で、源のペアとして活躍する彼。伸びしろいっぱいで何かと絶妙なツッコミの嵐に合うことも。
 上手くいかない…けれど頑張る彼をきっとあなたも応援してしまいます。
山田さん改名しなくていいですよ!
新選組に仕事が似てるなぁと思ったのが就職動機な:牧高 美和まきたか みわ
 女子校出身で男性耐性0。なのに強面揃いで男だらけの刑事課勤務!
 しかし、本人は歴史オタクで、のほほんとしているのがまたなんともいえません。動じない彼女のペースに巻き込まれたらもう抜け出せない?
そして私の一推し副署長
巻を増すごとに素直さと天然振りに磨きがかかる川合。彼女の爛漫さにとうとう町山警察署の副署長も折れる――?
強面で元機動隊員。柔道段持ちなのに部下の成長を影ながら見守る彼が私の推しです。
大漁のボケに、多彩なツッコミ!
 警察官時代は似顔絵捜査官をしていたという泰 三子先生。特徴の際立つ絶妙なタッチで描かれる愉快なメンバーそれそれの表情もまた魅力的です。
 そんなどこかリアルな彼らが紡ぐ笑いはなんともシュール!
 ツッコミ役、ボケ役の境はなく独特のテンポに引き込まれたら最後、つい読み進めてしまい、気が付けばもう中毒です。
私が大笑いしたのは寮に全員集合の宅飲み会です。

✔頼れる街のガーディアン

「ルールはどうして守らなければいけないんですか?」と小学生に聞かれたとき、あなたはなんて答えますか?

 作品を読んで印象に残ったこと。それは、困ったときに助けを求められる場合もありますが「防犯こそが交番勤めハコヅメ」の役目ということ。
 スピード違反やベビーシートを取り付けていないなど、ルール違反の車両への注意。素行不良な未成年の指導など、警察官の仕事は市民へのルール遵守をさせるようにも見えます。
 そんな防犯を徹底する彼らは日常的に私たちの知らない「犯罪や、事故、事件」に相対します。
 その不幸を知っているからこそ、「防ぐ」こと「ルールを守る」ことに重きを置くのです。
さて、冒頭の質問。その答えは無数にありますが、『ハコヅメ』で川合の回答は第1話に掲載されています。そのヒントを教えてくれたのは意外にも……。
 ときどきサスペンスや捕り物アクションもあり、犯罪被害に遭い、止まっていた被害者の日常が再生する瞬間に涙することも。
 けれど話の中心となるのは平和な日常。それは彼ら警察官の働きによって私たちの暮らしが守られている証でもあるのです。

 ちょっとシュールで味わい深く、独特のテンポがクセになる極上コメディ。読み進める内に身近な交番勤めハコヅメの見方が変わってくる。面白さが満載な作品です。

▼ 作品情報 ▼

ハコヅメ~交番女子の逆襲~

著者:泰三子


(C)泰三子 / 講談社