「目からマヨネーズが出た?」「足が下駄になる!」とんでもない「怪」病の因果を『怪病医ラムネ』が紐解く!

ある日突然、目から「マヨネーズ」が出たらあなたはどうします?
 私たちの心は、嬉しいことがあれば温かく膨らみ、悲しいことがあれば萎んでしまいます。心が形を変えて移ろうように、体の調子もまた、晴れの日ばかりは続きません。

 薄着をして、風邪を引く。傷んだものを食べてしまい、お腹を下す。鼻水が出る、お腹が痛む、熱が出る……と、病になると助けを求めて体は様々なサインを出します。
 けれども、それが思いもよらない「怪」症状だったら?
これは大変、すぐ怪病医に診てもらいましょう!
 『月刊少年シリウス』を経て、『マガジンポケット』で連載中の『怪病医ラムネ』は、怪病という名に相応しい、摩訶不思議な病症が次々に登場し、ユニークな治療が話の主体となるコメディ作品。――なのですが、心に深く刺さる内容が広い世代からの共感・反響を呼んでいます。
 今年2021年にはアニメ放送も始まり、注目が高まる本作。面白さに隠れた深みある魅力を、あなたも怪病患者になったつもりで一緒に紐解いていきましょう!

 『怪病医ラムネ』の面白さ。それはなんといってもこの、見たことも聞いたこともないような摩訶不思議な「怪」症状でしょう!

 目から調味料が出たり、足が下駄になったり、耳が餃子になったり……と、次から次へとどうしてこんなに面白いアイディアを思いつくの?
 当然スマートフォンで「耳 餃子 聞きづらい」なんて検索してもヒットせず(当たり前だ)。友人や家族にも言えないし、一体、どこのお医者さんを訪ねれば?と、患者は途方に暮れちゃいます。
大事なところがちくわに……、とんでもないですね。
作品における怪病とは?
作中では“怪病とは奇病と怪異の中間にあり、弱った心や体に「変」になって表れる病症”とのこと。
 その怪病の原因となる「怪」は “強いストレスや、人の残存思念につられて寄ってくる、かつての古い神さま”とも語られています。
 古い神さま、何てことしてくれるんだい?

 いずれにせよ、このままではオカルト雑誌から取材の申し込みが殺到する事態になりかねません!
 これを機に動画配信サイトでデビューし、荒稼ぎするのもアリですが、やっぱり、治したいですよね。
 と、話はこれだけでも十分面白いのですが、その病の裏には理由あり!

 ストーリーが進むにつれ、どうしてそんな「怪」が体を「変」にしてしまったのか、その因果が明らかになっていきます。

 すると、最初は笑えていた怪病が笑えず、深く刺さる暗喩として息づいてくるのです。この謎解きのようなミステリー要素もこの作品の面白さ。
 さぁ、怪病医を訪ねましょう!

✔怪病医に診てもらおう!

 腹痛は内科、肌荒れは皮膚科、花粉症はアレルギー科とあるように、怪病は、専門の怪病医に相談するのが一番です。でも、怪病医ってどこにいるの?

「もしよければ、そういう病気の専門医ご紹介しましょうか?」
 困った患者のもとにどこからともなく現れるのがこちら「クロ」くん。怪病医ラムネ先生の弟子であり、患者の水先案内人としての役割も果たします。
 細身な体と常にクールな表情に似合わず、実は格闘道場の子息で武闘派。名門校に通い、常識から逸脱するラムネ先生への突っ込みもこなすマルチな才能を秘めた中学生。しかし、彼にも秘密があるようです。

「この怪病専門医ラムネ先生が治してやる!(ドヤァ)」
いつものらりくらりとテンションの軽い先生ですが、怪病医
は明るくないとやっていけない?
 そしてこちらのノースリーブ浴衣に数珠と、個性的な出で立ちの伊達男が本作主人公の「ラムネ」先生です!
 人を食ったような性格で、飄々とした振る舞い。ときおり口が悪く、テンションは軽い……と、あらヤダ、なんだかうさんくさい笑!
 医者というよりもむしろ変なツボを売りつけられのでは?と、心配になりますが、どっこいなかなかどうして名医なのです。

 患者はもちろん読者の印象が覆る、ラムネ先生の格好良さはぜひ本編で触れてみてください。

 と、このように、ユニークな怪症状を抱えた患者を怪病医ラムネ先生が、ときにクロくんに突っ込まれつつも治療を行っていくわけです。
 もちろんその治療もまた独特。お茶を飲んだり、風呂敷を巻いたり、扇であおいだりと、先生こんなんで私の病は治るのでしょうか?

✔心をくすぐる個性豊かな怪具たち

 専門医だからこそのユニークな治療器具、「怪具」も見どころのひとつです。持てば姿が消える「猫蒲の穂(ねこがまのほ)」や、互いの声だけが聞こえるちょっぴりロマンチックな「夜声真珠」など。患者の治療に合わせて登場する怪具のバリエーションは様々。
 民俗学や伝承・神話、妖術を思わせる和モダンなオカルト要素も漫画を読む読者の心をくすぐります。
私のお気に入りはこちら「もけもけふくろう」のモケちゃ
ん。怪具ですが、意思を持ち、その外見は雪だるまのような
鳥です。可愛いね、きみ。
 さて、先生にも相談し、怪具もそろっていよいよ治療……でもその前に。

✔治療。その前に、心当たりはありませんか?

 こんな生活を続けていたら、
 とんでもないことになるんじゃ……。

 二日酔いでくらくらする、貧血がひどい、お腹を下した……。体調がどん底だと内心で悪態の一つもつきたくなるものです。

 でも、それって本当に何かのせいなのでしょうか?

 連日遅くまで残業、夕食は 22 時過ぎにコンビニ弁当で済ませ、ロング缶のあてにスナック菓子をつまみながら、スマホを片手にソファーでうとうと……気が付けば 2 時。
 なんて、ここまでひどい生活じゃなくっても、悪習慣は誰にもあるものです。
 体に「変」として表れる怪病もまた、体や心が発する SOS のサイン。だからこそ治療のためにはその原因と向き合う必要がある。
 ここでストーリーはコメディから一転し、患者の持つ深い悩みが浮き彫りになっていきます。

 野菜を食べて、運動し、間食は控え、7 時間以上睡眠を取る。わかっていても健康的な生活をおくることのなんと難しいことでしょう。

 本作でもラムネ先生に指示された患者の皆さん、九分九厘言うこと聞きやしない笑。

 でも読者としてもそんな生活を続けたらどうなっちゃうのかなと気になりますよね。だからこれでいいのです。そして舞台は大詰めへと向かっていきます。
さて、彼は体の何を見て、どんな状況で「ま
るでちくわだな」と、言ったのでしょう?
 大事なところがちくわになってしまった彼も、ラムネ先生の忠告に耳をかすことはなく……、その結果、事態はとんでもないことへと発展していくのです(大事なところがちくわな時点でとんでもないですが)。

✔回復のために必要な代償とは

治療は医師と患者の本気のぶつかり合い
 いざ、治療を始める怪病患者たち。ここで作品に奥行きを与え、物語を盛り上げるのが、作者阿呆トロ先生の卓越した画力です。
 迫力のある筆致でキャラクターの感情の起伏や「本気の表情」を見事に描き切ります。

 怪症状となって表れる体の変化。それはその人の縁や生き方を左右しかねない、体や心からの悲鳴でもあります。
 だからこそ因果は深く、それを変えていくのはとても根気と勇気がいることです。

 でも大丈夫、「本当に治したい」と患者が治療に取り組むのを、真剣に支えてくれるのが名医なのですから。
 普段飄々としたラムネ先生が名医へと変貌する荒療治は見応え十分ですよ!
病になると見えてくるもの
 無神論者の知人が「お腹を下してトイレで籠城しているときだけは神に祈る」と話していたのを思い出します。

 脱線しましたが、
 調子のよいときは、健康であることの幸福を忘れてしまうものです。
 当作品を読んでいると、“代償”とは何かを失うのではなく、何かを得ることでもあるのだと感じられるのです。

 体に摩訶不思議な「怪」が起きたら、まずは自分の体と心に無理がないか、サインを見逃してはいけません。
 そして本気で治したいと望むなら、早めに名医に相談することが大切。
 あなたもどうぞ、お大事に。